海渡

哀れなるものたちの海渡のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
待ちに待ったヨルゴスランティモス監督最新作。彼のいつもの人間の汚い面をある意味救いようもなく描く悪趣味なアイロニカルさだけでなく、最後にはなんとなく希望を感じるような映画だった。

橋から飛び降りた女性の死体を天才外科医の博士が拾い上げ、彼女が身籠っていた胎児の脳みそを女性の頭にはめ込んで蘇生させて誕生した、ベラの人生の物語。

女性の自由をテーマとした映画だと捉えることができるけど、これほどまでにユニークな方法で社会というシステムの鎧をすべて解体して描くなんて。
一見悪趣味とも言われるような描き方でもあるけど、この"悪趣味さ"が人間を包み隠さずに全て描いた先にあるものなような気もするよね。

映像の世界観もなんとも言えない麗しさがあって、中世なのか、ファンタジーなのか、色んな要素を感じさせられる。空の独特な色彩や絵画のようなタッチの風景もすべてが美しいし、現実離れしたような心地にさせられる。

彼女は、退屈な社交辞令を退屈だと切り捨て、性に対する恥じらいの感情を一才持たず、もはや完全にと言っていいほどフラットな視点から世界を捉えて、一貫して自分らしく行動していく。
その過程で、ヤリモクで近寄ってきた男を逆に振り回してメンヘラ化させたり、所有欲を振りかざす男たちの骨を折っていくような姿も印象的。

ランティモス監督らしい独特なユーモアも面白かった。ゴッドがたっぷり間を取って吐き出すふわふわ泡のゲップ、まじでなんだったんだ。

まあ結論、指原ナレーションのキラキラポップなCMを作ってしまう日本の映画界のプロモーションが最も哀れなるものだよね。
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