てっぺい

哀れなるものたちのてっぺいのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
【哀れになる映画】
大人の体で新生児の脳を持つ突拍子もない設定を、痛烈な社会風刺に転じつつ、家族愛に帰着させてしまう濃厚な一本。エマ・ストーンの体当たり本気度MAXな演技は、見逃すと本当に哀れ。

◆トリビア
○本作は第81回ゴールデングローブ賞において作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、エマ・ストーンが主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞した。(https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings)
第96回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞など計11部門ノミネート。(https://thetv.jp/news/detail/1178774/)
第77回英国アカデミー賞では作品賞など計11部門にノミネート。(https://www.searchlightpictures.jp/news/20240118_02)
〇ベラを演じたエマ・ストーンは、役のアプローチについて聞かれ次のように回答。「なるべく羞恥心や先入観を取り払うように心がけた。それこそベラにはないものだから。立ち振る舞いやどのような喋り方をするかというのは、ものすごく研究して生み出した。それによって、彼女の成長ぶりが逐一わかるようにね。」
(https://www.banger.jp/movie/109578/)
○エマはベラについて「何よりも大事なのは自然に身を任せることだった。ベラは好奇心の塊で、喜びに満ち、どんなトラウマも持ち合わせていないから、考えることなしに条件反射的に反応する。演じる上でそれを忘れないようにしていた。」と語る。(https://www.banger.jp/movie/109578/)
〇過激なセックスシーンの撮影の前には、エマとセックスのポジションについて話し合ったという監督。「相手や状況によっていろいろ変えたんだ。ユーモアがあったり、人間性が出たりするようにね。エマもたくさんアイデアを出してくれた。」(https://bunshun.jp/articles/-/68500?page=2)
〇エマはプロデューサーとして企画の立ち上がりから参加。共同プロデューサーのエド・ギニーは、「エマはストーリーテリングに素質がある。プロデューサーとして極めて重要な存在です」と語る。(https://moviewalker.jp/news/article/1174746/)
○エマは、第96回アカデミー主演女優賞ノミネートに際して、本作でのセリフになぞらえ「ベラは私に、人生は決して砂糖と暴力だけではないのだと教えてくれました」とコメント。(https://thetv.jp/news/detail/1178774/)
〇エマは、最近では全米の長寿番組「サタデー・ナイト・ライブ」で放送された「Naked in New York City」というミュージカルに登場し、全裸で歌いながらゴミ収集車に乗る姿を披露。本作での体当たり演技から繋がったのではと推測されている。(https://www.youtube.com/watch?v=hg0x3-jsKGM)
〇ダンカンについてマーク・ラファロは、「彼の支配欲がベラとの関係性を壊してしまいます。いかなる猛烈なナルシストの根底にも、弱さや脆さが潜んでいます。ベラはそんな彼を押し開くのです」と、ベラの魅力にとらわれて打ちのめされていく男の内面性を説明した。(https://moviewalker.jp/news/article/1176394/)
「ダンカンは決して良い人ではないが、マーク本人の人柄が少し入ってくることで、完全な悪人にならなくてすんだとも思う。彼はあのキャラクターに奥行きを持ち込んでくれた。」と監督は話す。(https://bunshun.jp/articles/-/68500?page=3)
〇ヨルゴス・ランティモス監督の次回作『AND』には、本作同様エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォーが再出演。すでに撮影を終えているという。(https://bunshun.jp/articles/-/68500?page=3)
〇本作で散見される円形の映像は「広い世界へ続く窓」のようなものを表現し、そこから中に入っていけるような、中をのぞき見られるような効果を狙っていると撮影監督が明かした。(https://videosalon.jp/interview/poorthings/)
〇ベラが住む世界は、レトロな時代であると同時に、おとぎ話や物事のメタファーとなるようなものを目指したと監督は語る。さらに未来的なところや空想的な要素も入り混じったものにしたかったことから、セットを作り込むことにしたという。エマ曰く、すべてのセットを歩くのに30分はかかるような広大さで、圧倒されたそう。(https://www.banger.jp/movie/109578/2/)
〇東京・渋谷Parcoと西武渋谷店で本作の特設展示が2月上旬まで開催。ランティモス監督自身による撮りおろし写真27点のPOP UP写真展や、ARも駆使した特別展が公開されている。(https://eiga.com/news/20240120/8/)

◆概要
【原作】
アラスター・グレイによる同名ゴシック小説
【脚本】
「女王陛下のお気に入り」トニー・マクナマラ
【監督】
「女王陛下のお気に入り」ヨルゴス・ランティモス
【出演】
「ラ・ラ・ランド」エマ・ストーン(プロデューサーも兼任)
「スパイダーマン」ウィレム・デフォー
「はじまりのうた」マーク・ラファロ
【原題】
「Poor Things」
【公開】2024年1月26日
【上映時間】142分

◆ストーリー
不幸な若い女性ベラは自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。


◆以下ネタバレ


◆エマ・ストーン
本作は何よりも彼女の演技が魅力。大人の体に子供の脳が移植された時、どんなことを考え、どんな言葉を発し、どんな動き方をするのか。皿を割りながらゴッドの帰宅に飛びついて喜ぶ姿は赤子そのもの。リスボンで楽器と歌声に本能での悦を見せるあの表情がたまらない。ダンカンが半ば強制的にフォローに入ったあのダンスシーン(ヨルゴス監督作にはお決まり)も、少しいびつな音楽とステップとともに、ベラが音を楽しむ本能的な姿が見事(ベラに好色を示す者たちに見境なく飛びかかるマーク・ラファロもよかった笑)。そして何より、体を張った演技。“幸せな発見をした”と、初めての性に目覚めたあの表情も良かったし、モノクロからカラーに変わる、ベラの自由が始まったことが視覚的にも表現された“熱烈ジャンプ”(Furious jumpingと言ってた)から、その後の脱ぎっぷりに圧倒される。「女王陛下のお気に入り」撮影中に、ヨルゴス監督からこの企画を持ちかけられていたというエマ。信頼するチームと、ただの娼婦ではなく、赤子の脳で世界に飛び出したベラがたどる必然の世界観を表現する上で、彼女が望んで選んだ選択肢だったかも知れない。いずれにしても、その本気度がスクリーンからこれでもかと伝わってきた。

◆哀れなるものたち
屈託のない視点で世界を見ながら、時には喜びを、時には負の感情を受け取っていくベラ。リスボンでは道端での口論、アレクサンドリアではまさに哀れなまでの貧困に接し、嫉妬に震えるダンカンにはパリでついに愛想を尽かす。性交に悦を感じ、それを生業とする事は彼女にとって自然な事であり、それに激怒するダンカンは、一見当然な男の感情とおぼしくも、恐ろしくちっぽけに見えてくるのが本作ならでは。娼館で彼女が言った“女性から選ぶ事はできないの?”は特に、昔はおろか現代でもブッ刺さる、男女平等の理念を訴えるキラーワードでもありハッとさせられた。世界を知ったその先に彼女が向かった自らの出自には、ベラを“領土”と呼び、従者を冷遇する男の姿。世界の貧困や家父長制、男がいかに哀れな生き物か…ベラの視点を通して炙り出されていく“哀れなるものたち”が、そのまま本作が発する痛烈な社会風刺にもなっていた。

◆家族愛
世界を見たいというベラに、そっとお金を渡し送り出すゴッド。“情が移った”“科学者として失格だ”のセリフには、ゴッドがベラを娘のように思う表現が見え隠れ。ベラはベラで、いつもハガキをよこしながら、ゴッドの窮地には飛んで駆けつける。常にベラの身を案じていたマックスは娼婦となった彼女も受け入れる。死へと向かうゴッドに寄り添うベラとマックス、そんな3人の姿はもはや家族そのものだった。突拍子もない設定や、内包する社会風刺もさることながら、いびつながらもそんな家族愛に帰着させている事が本作のミソ。解剖動物や解剖人間に囲まれた、それだけを見ると“哀れなるものたち”でしかないラストは、本編を通してみると夫もパートナーもいるベラが、“本を読む”自由も勝ち取った、幸せの光景になるのがまた本作ならでは。独特の色彩、映像表現もありつつ、鑑賞後の余韻が延々と続く、なんとも見応えのある作品でした。

◆関連作品
○「女王陛下のお気に入り」('18)
本作と同じ監督、脚本家で製作され、エマ・ストーンも出演した作品。主演のオリビア・コールマンがアカデミー主演女優賞を受賞している。ディズニープラス配信中。
○「クルエラ」('21)
ディズニーキャラクターの実写化。第94回アカデミー衣装デザイン賞受賞作品。エマ・ストーン主演、本作と同じ脚本家、同じエマのメイク担当。ディズニープラス配信中。

◆評価(2024年1月26日時点)
Filmarks:★×4.2
Yahoo!検索:★×3.1
映画.com:★×4.1

引用元
https://eiga.com/movie/99481/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/哀れなるものたち_(映画)/
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