身を投げた女性が孕っていた胎児の脳を移植して蘇生。
身体と精神年齢が噛み合っておらず、精神的に幼いベラは自身の存在と知恵を身につけるために壮大な旅へと出るのだった...
これこそが人生、これこそが人間。
人間は嘘をつくし、罪を犯すし、人を平気で虐げるし、欲は深くて不快な生き物、非常に哀れ。だがこれこそ人であり、その哀れさと人生の素晴らしさを見事に表現しきった冒険譚が今作。
学習していく毎に変わる趣向や興味、そしてセックスの相手の変遷がとても緩やかで全く違和感と退屈を感じさせない構成力と編集力、お見事。
ヨルゴス・ランティモス作品のため、一癖も二癖もあるものの、その癖自体を表現してきた強大な表現力が今までにないほどしっかりと発揮されていた。
ファンタジックでありながら酢いも甘いもがストレートに表現されやすい絶妙な世界観の造形と、ホリー・ワディントンによる細部にも神が宿っていた素晴らしき衣装たちが世界を鮮やかに彩る。
綺麗事であり、実際問題なかなか難しい部分でもあるが、やはり身体なんてものは飾り。
精神こそが何者でもないと思っていた人間が自我を勝ち得、自らの精神性を1番大切なものとして大事に大事に懐へしまっている人こそが真の人間なのだろうな。
最初に人間は哀れとは綴ったが、今作タイトルに入った真なる哀れなるものとは暴力や金、女に呑まれ自身の欲を他人に強要する加害性のある人間を表現していると思う。
誰もが感じるであろう人生の儚さと哀れみ、そしてその素晴らしさを屈託なく描いている。
奇妙で絶妙な作品を制作していたからこその繊細さと大胆さで人間とは、人生とはを訴える素晴らしい作品だった。
間違いなく傑作。
