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哀れなるものたちのtanayukiのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.3
子どもの肉体に大人の頭脳をもたせた作品というと『名探偵コナン』のほかにもありそうな気がするし、女と男の肉体と心が入れ替わる映画も『転校生』をはじめ、いくつかあったと思うんだけど、大人の肉体に赤ん坊の心をもたせたらどうなるかを、ここまでヴィヴィッドに、ここまでダークに描き出した作品はちょっと思い浮かばない。なんかありましたっけ?

原作『Poor Things』の著者アラスター・グレイは、「大人の肉体に赤ん坊の心をもたせたらどうなるか」という、ありそうでなかった問いを追求するために、自殺した妊婦に、彼女が身ごもっていた赤ん坊の脳を移植するというアイデアを思いつく。それだけでも驚きだが、その描写があまりにも直接的でグロテスク、なんだけど、「たしかにそうかも」と思わせる説得力に満ちていて、クラクラする。

手当たり次第なんでも口にしてみる、ぶん投げてみる、壊してみる赤ん坊がかわいく見えるのは、その子が非力だからで、大人の肉体をもって同じことをすれば、それは立派な暴力であり、おちんちんをさわってみる、生きものを殺してみる、大人が赤面してしまうようなことを口にするという段階になると、長い時間をかけて社会性を身につけ、タブーを学習してきた大人からすると、不道徳きわまりない行為に見えてしまう。だけど、やってることは小さい子どもと変わらないんだよね。

サルがマスターベーションをするのはよく知られているが、他のサルに見られたら恥ずかしいとか、パートナーがいないことがバレてしまうと群れの中での立ち位置が変わってしまうといった制約がなければ、それは大っぴらに行われるだろう。羞恥心をもたないベラも同じで、性器をさわると気持ちいいと知ったベラが狂ったように腰をふるようになるまで、たいした時間はかからない。理屈ではたしかにそのとおりなんだけど、それを演じるとなると話は別。だが、ベラ・バクスターを演じたエマ・ストーンは一瞬たりとも躊躇しなかったという。

「迷いなんて、一瞬たりとも持たなかったわね。これは私がめぐりあった最高のキャラクター。しかもヨルゴスが監督するというんだもの。決心はすぐだった」

「ベラを演じる上では、羞恥心や常識をできるだけ排除するようにしたわ。彼女は純粋な喜びと好奇心に満ちている。トラウマもない。そういう大人は、普通いない。みんな何らかの辛い経験をしてくるものだから。でも、彼女は発見する過程にいるの」

フルヌードと大胆なセックスシーンにも…「説得は不要だった」俳優エマ・ストーンが迷わなかったワケ
https://bunshun.jp/articles/-/68743

いやあ、すごい。彼女のプロ根性に惚れました。エマ・ストーンの怪演ぶりはぜひ劇場で確かめてみてほしいのだけど、これを単なるエロ映画と思っていると、手痛いしっぺ返しを食らうことになる、とくに男性陣は。赤ん坊だって学習する。当初は自分の快楽にしか興味がなかったベラも、ほかの男や女と知り合い、社会の矛盾を見て、哲学を学び、愚かな男たちのありとあらゆる性癖を学んで、人間的に大きく成長する。短期間で「大人の知性」と「人としての器」を身につけたベラがたどり着いたのは……。

ベラを生み出したマッドサイエンティストのゴドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)も、ベラの肉体に溺れ世界中を放浪するハメに陥った悪徳弁護士ダンカン・ウェダバーン(マーク・ラファロ)も、生前のベラを自殺に追い込んだDV夫のアルフィー・ブレシントン将軍(クリストファー・アボット)も、女性を自分の支配下に置く願望にとりつかれた男という点で一致する。ベラは束縛からの自由と解放を望むが、その行き着く先がリベンジどまりで、結局のところ支配者が交代しただけだったというのは、ちょっと残念な気がした。まあ、育った環境が人を育てるのもまた事実なわけで、身近な大人が支配欲にまみれた男だらけだったのだから、ベラはむしろ順調に、きわめて真っ当に学習した結果そうなったにすぎないのだけど。

△2024/02/01 109シネマズ二子玉川で鑑賞。スコア4.3

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