tanayuki

DOGMAN ドッグマンのtanayukiのレビュー・感想・評価

DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)
4.2
得体の知れぬ宗教にとち狂い、闘犬にもハマったDVクソ親父は、空腹で闘争本能をむき出しにした状態を保つように、イヌたちにエサを与えることを禁じる。そんなイヌをかばった息子ダグラスは親父に目の敵にされ、殴る蹴るの暴力を受け、ついには犬小屋に閉じ込められてしまう。犬小屋でともに暮らし、度重なる虐待で連帯感を強めたダグラスとイヌたちはいつしか言葉が通じるようになる。

親父の腰巾着にすぎない兄貴が犬小屋のフェンスに掲げた一枚の布には、「IN THE NAME OF GOD(神の名にかけて)」と書かれていた。おまえなど神の名に値しない、という呪いの言葉だったが、犬小屋の中にいたダグラスには、「DOG …… MAN …….」という反転文字だけが見えた。ドッグマンの誕生だ。

子犬が生まれたのが親父にバレ、子犬を撃ち殺そうと銃を持ち出した親父を止めるために狂ったように抵抗を続けたダグラスは手の指を吹き飛ばされ、運悪く跳ね返ってきた流れ弾が脊髄を損傷、下半身不随となり、それからの人生で車椅子が手放せなくなってしまう。が、引き飛ばされた指を一匹のイヌに託し、警察車両を呼び寄せ、親父と兄貴は虐待の罪で御用となる。親父はダグラスを檻に閉じ込めたが、自分が檻に入れられるのは拒否して自殺。兄貴は模範囚として刑期を短縮されて出所するが、そこに待ち受けていたのは……。

児童養護施設でも友だちができきなかったダグラス少年が唯一心を許したのが、演劇指導のサルマ先生。彼女の影響で古典演劇、とくにシェイクスピア劇のセリフを丸暗記するほどのめり込んだダグラス少年には、惨めな自分を忘れるためにも、表現する場が必要だった。長じてからも、そのときの経験が彼に一筋の光をもたらしてくれる。車椅子の障害者として、なかなか定職につけなかったダグラスは毎週金曜日の夜だけ、キャバレーの舞台で歌う仕事を得たのだ。ドラァグクイーンとなったダグラスが舞台裏で車椅子からすっくと立ち上がり、エディット・ピアフの「水に流して」を熱唱するシーンは鳥肌もので、その神々しさに打ち震える。

だが、捨て犬たちを秘密のアジトに匿って暮らすダグラスにとっては、それが唯一の仕事ではなかった。暴力と隣り合わせの苛酷な人生を送ってきた彼に残された選択肢は多くない。リュック・ベッソンには大風呂敷を広げた大作よりも、こじんまりとした世界でくり広げられるバイオレンス・アクションがよく似合う。ニキータ、レオン、……そしてドッグマン。ドラァグクイーン姿のダグラス(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)がとにかく哀れで、美しすぎて、おれの目にはホアキン・フェニックスの『ジョーカー』が重なって見えたよ。

△2024/03/10 109シネマズ二子玉川で鑑賞。スコア4.2
tanayuki

tanayuki