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哀れなるものたちのhiyoのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
演出はベラ自身のように奇天烈で突飛だけど、物語のメッセージはかなりまっすぐに感じました。面白かったです。

ヨルゴス・ランティモス監督作品は、籠の中の乙女、ロブスター、聖なる鹿殺し、女王陛下のお気に入りと主な作品は観てるんですが、これまで割といつもあった鑑賞後の不安感や不快感はあまりなかったです。
聖なる鹿殺しは相当胃が重くなって、ちょっとしばらくそれしか考えられないくらいの衝撃だったりしたので、今回もドキドキしながら観たくらいでしたが。


歩き方や食べ方から赤ん坊だったベラが成長・進歩する中で、話す言葉や振る舞い、着ている衣装まで目まぐるしく変わっていくことが、感受性や理性といった彼女の内面的な変化とリンクしているのがわかりやすかった。
特に衣装は、どれもとても魅力的だったけれど、ベラが自分で選ぶようになったものと、着せられているものとの差から、衣装も女性を縛る手段なのだなあと改めて思ったりしました。縛られてるとわかっていても、美的に魅了されるような衣装が多いのも印象的で、それも悩ましかったです。衣装の色にも意味があるんだろうな。
魚眼っぽい画面や、背景だけ拡散されるような画面みたいに撮影も面白かったし、背景や小物の美術も魅力的で目が楽しかった。手術シーンだけは苦手なので目をつぶってました。

若く美しいけれど自我や知識や経験がない女性は、人形のように非機能的で美しい衣装を着せられて大事に仕舞い込まれるか、見せびらかすためのトロフィー扱いをされるかで、女性自身の人生を生きることができない。
そこから知識や経験を得ることで自我を確立し、やがて自力で稼ぐことができるようになることで、それまでのような贅沢な暮らしはできなくなるし身の安全も保障されないけれど、そこで初めてベラは自分の夢を選ぶ自由を得られた。

セックスにしても、女性を受け身で語るのではなく、自ら快楽を求めるベラの姿を描くことで抱き合う二人を対等関係に見せ、ベッドシーンが多かったですが女性が一方的に搾取されるような下世話ないやらしさはなかったと思いました。
ベラは気持ち良くなければそういうし、演技してればその理由も話していたので、性暴力には感じませんでした。
でもこの印象は、撮影時にインティマシーコーディネーターがちゃんと入ってるという前情報を知ってたからこその安心感だったかもしれないです。

「熱烈ジャンプ」がお気に入りだったベラの価値観が、マーサと出会ったことで変わるのもよかった。エマソンを投げ捨てられたベラに、すかさずマーサが読んでた本を渡すのもよかった。
トワネットとのシスターフッドといい、女性の連帯もわかりやすく描かれていたのもホッとしたところでした。


複数形で語られる「哀れなるものたち」、作中poorと言われてたのはベラでしたが、わたしが哀れだと感じたのは破産したダンカン(人の良い役柄のイメージが強かったマーク・ラファロのああいう役を初めて見たので新鮮でした)を筆頭にベラに執着していた男性たちのほうで、個人的には父親に虐待されていたゴッドが一番悲しかったです。
だからと言って、ベラやフェリシティにしたことは倫理的にどうかと思いますが。

小説版とは結末が違うということなので、原作も気になりました
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