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あしたの少女のhiyoのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
4.0
ソヒが亡くなったことはもちろん、まだ高校生だったソヒの死に責任を感じて悲しんでいるのは彼女の友だちや同僚だった同世代だけであるのが、悲しくて遣る瀬なかった。

彼女に身近で、彼女を守る義務があったはずの大人たちは、会社も学校も行政も両親でさえも、競争社会を言い訳にすべて自らの責任を棚上げして責任転嫁していたことに憤りを感じました。その誰も彼もが、ソヒの言葉に向き合おうとも引き出そうともせず、両親以外は彼女の死を「迷惑」だと隠しもしていないのがあまりにもひどい。


両親は、ソヒがダンスが好きでスタジオに通って踊っていたことさえ知らなかったというのは、保身だとしてもひどいし、真実なら一人娘へのあまりの無関心に背筋が寒くなる。

仕事についても、ソヒが何をさせられていたのか知らなかったという。
毎日残業していたソヒを迎えに行っていたのに彼女が職場で何をしていたのか聞かなかったのも信じ難いですが、何度か映る家庭での食事でさえほとんど会話らしい会話もなかったことから本当に知らなかったのかもしれない。

両親をそうしてしまったのが何なのかはとても気になりますが、ソヒの家庭環境を掘り下げなかったのはよかったと思います。
もし家庭環境の掘り下げがあれば、「問題のある家庭だったから」と、それこそ会社の指示通り個人の問題にされてしまい、競争社会が生んだ構造破綻から目が逸らされてしまったと思うからです。


会社が顧客も従業員も大切にしていないクズ企業なだけでなく、そのような労働基準法に反する実態を「仕方ない」と飲み込もうとするとき、犠牲を強いられるのはいつだって弱い立場で、今回で言うと高校生で「実習生」として、企業と学校と家庭に三重に縛られた子どもたちになる。
そんなふうに、弱い立場にだけ負担を押し付けることはまったく「仕方ない」話ではない。

環境に制約されて自由を奪われた状態から選択できないことを、さも自由意志で選んだように吹聴するのはマインドコントロールだし、良心がある人は前チーム長のように耐えられないのだと思う。


韓国の成人年齢は19歳のようなので、法的にも高校生はまだ子どもで、卒業間近とはいえあんなに公共の場でも飲酒していることに(それを誰も、警察さえ咎めないことに)びっくりしましたが、企業に搾取され使い捨てされるストレスを酒にぶつけている姿はとても痛々しかったです。


実際の事件をもとにした作品なので、エンドロール前に2017年の事件を受けて、現在の「実習」制度がどのように変わったのかまたは変わっていないのか、説明があると思っていたのですが何もなくて、そこは拍子抜けでした。
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