きょんちゃみ

哀れなるものたちのきょんちゃみのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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俺はこの映画に出てくるシーンの中で、ベラとハリーの対話シーンが一番、心に残った。

ハリーは「世界の痛み」を知っているくせに、それに嘆いているだけ。世界を変えようとする人への賛同は建前でしかない。ハリーは、「リアリスト」であると自分のことを語ってはいるが、ベラの発言によれば、ハリーは実際には「little boy」でしかない。

世界に無数の痛みがあると知っているなら、その改善を建前としてのみ受け取るのではなく、本気で受け取って少しでも減らしに行けばいいのに、ハリーはただひたすら嘆いているだけ。実はハリーは、世界の残酷さに圧倒されて、動けなくなり、それを嘆くこと以外何にもできなくなってしまった少年でしかないのだ。そして、世界に痛みがどれだけあるのかということを認識しているほど物知りな自分への陶酔もあるのだろう。

現実を知っているだけというのも幼稚な態度なのだ。彼は自分だけマーサのヒモという安全な場所を確保していて、社会改造のためのあらゆる試みを時間の無駄だとシニカルに見ている。やたら物知りだけど幼稚な人間もいるのだとベラは見抜いていく。「Protect yourself with the truth.」とハリーは語るが、ベラからすればハリーが真実でもってやっているのは「protect」だけで、「improve」ではないのである。ベラからすればハリーさえ「哀れなるものたち」のうちのひとりなのであった。ベラはハリーを乗り越えて先に進む。

たぶん俺はハリーのような人間だった時代が長いので(いや、もしかしたら今もそうかもしれんが)、このセリフがとても刺さった。

BELLA:I realize what you are now Harry, just a broken little boy who cannot bear the pain of the world.

「ベラ:あなたが誰なのかやっと分かったわ、ハリー。あなたは壊れた少年。世界の痛みに耐えられなかったのね。」
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