Mariko

哀れなるものたちのMarikoのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.2
フランケンシュタインを超える狂気を孕んだ天才外科医が創り出した「ベラ」の成長とそれに伴って得ていく自我を描いた怪作。
グロテスクさと清々しさを両立させた作品というのを初めて観た気がする。

実によく作り込まれた凄い作品で素晴らしかったけれど、すごく好きかといわれたらそうではない、かな。
グロテスク、死体を切り刻むといった具体的な「グロ」さではなくて、作品全体の歪なテイストとしてのそれがあんまり得意じゃないからだと思うけれど(ちょっと整理できてない部分もあり)。

本能だけで突っ走ってきたベラが、アレクサンドリアでは(このタイミング?とは思ったかな...)貧民窟に衝撃を受ける人間の精神性を持ち、哲学書を読み、社会主義に系統していく知性を獲得し、人間としての理性も得た結果としてのラストの光景がどうにも気持ち悪くて。歪んだ急成長の象徴なんだろうけど。

ただ、そのベラの(エマ・ストーンの、というべきか)知性と運動能力の変遷は観ていて実におもしろかった。プリミティブであるが故の言葉遣いなんか特に。アレをfurious jumpingって表現するの凄いな、と思ったんだけど、更にはそれを「熱烈ジャンプ」って訳したの上手いなあ、猛烈じゃなくて熱烈ね!と思わず膝を打った。

美術は最高。一瞬なんでスチームパンク?とは思ったけれど、その歪さは作品にとてもマッチしていたし、そこに美しくもアンバランスな衣装に身を包んだエマストーンの佇まいよ。後ろに見える景色も身につけているものも、「彼女にはこう見えている」からあの煌びやかな歪さなんだよね。うん、衣装。素材から造形から色から、それを見ているだけでベラの成長ぶりがわかるように作られているのも素晴らしいし、衣装がいちばん好きだったかも。
比して、音楽はどうにも困った。ダメなのよ、理由がわかっていても、あまりに平均律に慣れすぎた脳には、クラヴィコード的な撥弦鍵盤楽器のチューニングを微妙にズラした音が気持ち悪くて、、いや全体の世界には合っていることは認めるけど、個人的には辛かった。

エマ・ストーン以外の役者陣では、マーク・ラファロがこういう「ダメダメな色男」もできるのか〜、と感動。彼を観たことがなかったら、すごくハマってると思っただろうけど、ただ私には(ていうかたぶん世界中が笑)彼はやっぱりブルース・バナーなのでね、、「そういう意味での」違和感(最大級の褒め言葉でもある)はあったかな。こういうのはオスカー・アイザックの出番よ、ってうっすら思ってたら、現場でそういうネタになってたらしい。なるほど(笑)。
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