たけのこ

ザ・クリエイター/創造者のたけのこのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

たけのこ映画史上で十年に一回クラスの傑作SF作品でした。

近未来SFとしてのディテールの確かさと映像技術の高さ、ストーリーテリングの見事さ。本能の奥深いところを抉られる場面が多かったです。

自分の遺体を横目に死を悟りながら迫りくる三十秒間の絶望は想像を絶します。その絶望を与えることに躊躇しない人間のおぞましさ。仮にそのような技術が実現したとしても越えてはならない一線ですね。亡くなった主人公の妻に同じ仕打ちを行おうとする場面は本当にやめてくれという感じで、人の死の尊厳というものを強烈に意識させられました。

ベトナム戦争での米国によるアジア人に対する残虐行為を象徴的に再現する形で、米国人(人類サイド)を徹底的に悪人として描いている。米国の人にとっては向き合いたくない過去だと思いますが、人間性の尊さというテーマをを問いかけるためにあえて自己批判を辞さない制作陣の覚悟に並々ならぬものを感じました。それがAIであろうとアジア人であろうと、「自分たちと同じ人間ではない」と思うことで人はどこまでも残酷になれるのか…。オリバー・ストーン監督のプラトーンを観た時もそうでしたが、このような作品ではどうしてもアジア人側に感情移入してしまうし、そのような自分がアジア人であることを改めて意識させられます。

かたや子供たちを巻き込まないために距離を置いてミサイル攻撃の標的になるAIロボ。ベトコンの笠帽子を思わせるAIポリスのキャラデザがまた秀逸なんですよね。

ラストでの最愛の妻の魂との奇跡的な再会には大きく感情を揺さぶられました。思ったのですが、日本人が(少なくとも昔の日本人が)道端のお地蔵様に自然に手を合わせる心。日本人に(少なくとも昔の日本人に)備わった素晴らしい特性なのではないでしょうか?科学的な組成では単なる「石」であっても、それを尊厳のある「他者」として扱うことのできる心。その対極は、自分と異なる「他者」であればどれだけ粗末に扱っても構わないという考え方。

「他者」との線引きをどこに置くかは、「生命と石」であったり「人と猿」であったり「米国人とアジア人」であったり「人類とAI」であったり様々だと思いますが、万物に魂が宿るヤオヨロズ的な日本人の宗教観は、「他者」の尊厳を認める点において特筆すべき価値があるように思います。ただ残念ながらこの数十年でそのような日本人の心が失われ、即物的な価値観に支配されつつあるように感じます。

ブレランもそうですが、SF作品の良いところは、寓話的な表現によって人間の本質をより際立たせるところにあると改めて感じました。
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