イルーナ

ペルリンプスと秘密の森のイルーナのレビュー・感想・評価

ペルリンプスと秘密の森(2022年製作の映画)
4.5
「ひとりぼっちじゃないって、素敵なこと」
このキャッチコピーと、まるで絵本のような絵画のような美しいキービジュアル。
一見ハートウォーミングな雰囲気ですが、これがまさかの衝撃作でした。
というか、「魔法の森での無邪気な時間が終わる時、驚きの結末がおとずれる」の方が作品の趣旨的にマッチしている。

まず初めに、圧倒的な極彩色の世界感と立体感、水彩画のような繊細な筆致。
パンフレットや公式サイトにはパウル・クレーの言葉が引用されています。
「本当は色が私たちを支配しているのであって、その逆ではない」
それくらい圧倒的な、色と光の表現力。森にすむバッタや蝶、魚といった生き物もデフォルメを効かせてシンプルかつかわいらしく仕上げています。
ただし、冒頭やクライマックスに原色のパカパカがあるので、光過敏の人は要注意です。
海外だとその辺の規制は緩いのでしょうか……

冒頭の語りで、神話的世界に一気に引き込まれます。
森や雲の上をクラエとブルーオが縦横無尽に駆け回り、空には二つの満月が浮かぶ。
しかし物語自体は、舞台である森が「巨人」によって脅かされており、常に不穏さが漂う。
オリンピックやパラリンピックのマスコットのように愛らしい主人公の二人さえ、観ているうちに「……おかしいぞ?」と、だんだん違和感を感じるように作られています。
クラエとブルーオの姿は、様々な動物の特徴が混ざったような姿。
二人の口から色々と語られる割に、実態が全く見えてこない太陽と月の王国。
中盤になるまで、二人以外の登場人物が全く出てこない世界観。
森の住人のはずなのに、ラジオや通信機といった文明の利器を使いこなすクラエ。
彼の口からたびたび語られ、どう見ても敵のはずなのに擁護され続けるドラード大尉とは?
ブルーオの住むという「車輪付きのお城」とは?
そもそも、なんで子供が世界を救う重大な任務に就かされているんだ?

中盤になってようやく現れた二人以外の登場人物、かつて巨人の世界に潜入していたという老鳥ジョアンによって少しずつ「巨人」の世界の姿が見えてくる。
曰く、この世界を救う鍵「ペルリンプス」は無限の王国からやってきた存在であり、本来はどこにでも居るとされる。
しかし「巨人」の世界にいると、時間の流れがあまりにも早いので自分が何者か忘れてしまうという。
巨大な壁によって分断された街、しかも片方は大都会、もう片方の光はまばらという描写などから、じわじわと嫌な予感が強まっていく。
そして、それまで違和感を感じていた二人の正体が明かされ、セリフなどの伏線がすべて回収された時、この世界が抱える戦慄ものの実態があらわになる……!

「任務完了 僕らは巨人の世界に潜入した」
新たな、そしてあまりにも危険な任務に挑む子供たちは、「ペルリンプス」としてこの世界に希望の光を灯せるのでしょうか。

追記
入場者特典で、紙製の二人の耳がもらえたけど、子連れ客はゼロ。
ターゲット読み間違えてないかこれ……?
イルーナ

イルーナ