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貴公子のRのネタバレレビュー・内容・結末

貴公子(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画館で友人1人と。

2024年の韓国の作品。

監督は「新しき世界」のパク・フンジョン。

あらすじ

フィリピンの地下格闘で日銭を稼ぐ青年マルコ(カン・テジュ)の前に「父の使い」を名乗る男が現れ、マルコは韓国に向かうことに。その道中の飛行機の中でマルコは自らを「友達」と呼ぶ謎の男、"貴公子(キム・ソンホ)"と出会う。不気味に笑う貴公子を前に恐怖を感じ、逃げるマルコだったが執拗に追いかけてくる貴公子の狂暴ぶりに徐々に追い詰められていく。

予告や事前情報でかなりバイオレンス濃度が高そうな激しい戦闘描写が気になって調べたら、なんと「魔女」シリーズのパク・フンジョン監督の最新作だということがわかり、そりゃ観に行かねばということで友だち誘って行ってきました!!

結論から言うと、思ったのとはかなり違う内容なれど、二転三転するストーリーの面白さもあり、トータル楽しめました!!

お話はあらすじの通り、ジャンル的には「バイオレンス」に当たるような内容。

まず、冒頭が良い。どうやら、今作の主役である「貴公子」が標的の下っ端に囚われちゃうところから始まるんだけど、下っ端2人が椅子に括り付けて身動きとれない状況に安心しきって雨が降り頻る倉庫の扉を開けて、貴公子に背を向けたまま、2人でタバコを吸っているんだけど、そのバックで無音のまま、貴公子が近くにいたもう1人の下っ端をサクッと殺して自身の代わりに椅子に括り付けて、そのままスタスタと歩いてバールのようなもので2人の頭をガキン!ガキン!そしてタイトル「貴公子」くぅー、イカすぅー!!

で、貴公子のキャラクターに関してはこの後、語るとして、その後は舞台が代わり、もう1人の主人公マルコの話に移る。

どうやら、病床に臥せっている母親の手術費を稼ぐために、ボクシング賭博で日銭を稼いでいる姿が描かれる。

で、そんなマルコを演じるのは、新人のカン・テジュ。どうやらパンフによると1980倍というオーディションを勝ち抜いた新星でもあるらしく、なるほど、端正な顔立ち然り、ボクシングシーンからわかる細マッチョの肉体美然り絵になるルックの良さもさる事ながら、寡黙な性格から、セリフ自体は多くないものの長年の貧乏生活と「コピノ(韓国とフィリピンの間に生まれたハーフ。劇中では「雑種」と揶揄される)」という自身のバックボーンから、かなり擦れた感じも上手く出ていて、なかなか存在感のある役者さんで今後も楽しみ。素人目でもわかる流暢な英語でのセリフもなんなくこなしているところもすごい。

で、そんなマルコが突然長年音信不通というか、ほとんど見捨てられたような父親が待つ韓国に向かうということになり、世に言う「韓国ノワール」の様相を呈した、様々な思惑が絡むような展開になっていくんだけど、その結果、なかなか観る前に想像していたような血で血を洗うバイオレンスアクションシーンに発展していかないからちょっと思ったような感じにならなくてヤキモキ。

ただ、そんな中でも、マルコの腹違いの兄貴で、財閥御曹司のハン(キム・ガンウ「君だけが知らない」)によるショットガン処刑のシーンはスリリングだったし、違う派閥の表向きは弁護士の女暗殺者ユンジュ(コ・アラ「探偵ホン・ギルドン」)によるカーアクションだったり、異質な存在感を放つJKガヨン(チョン・ラエル「THE WITCH/魔女-増殖-」)だったりと魅力的かつミステリアスなキャラクターが登場し、存在感を発揮させていくので退屈はしない。

個人的には劇中ではちょい役だったけど、マルコを護送するやたらマルコに絡む、ガラの悪いドライバーが無駄に存在感があって面白かった笑、すぐ殺されちゃうのが残念。

で、その中でも一際存在感を放つのが主人公である「貴公子」を演じたキム・ソンホ。

映画作品だと、どうやら今作がデビュー作品らしく、元々は「海街チャチャチャ」などドラマ畑で活躍していた俳優さんらしく、なるほどその顔立ちは韓国アイドルに1人はいそうな甘いルックスのイケメンという顔立ちで、今作でもそのご尊顔を生かして、全身ブランドコーデで決めたスーツスタイルだったり、清潔感のあるアップに決めた流行りの髪型もバシッと決まっていたりして、ゴージャス感のある、まさに「貴公子」というコードネームがピッタリのキャラクターなんだけど、その所作はそんな見た目に反して、とにかく冷酷で無慈悲。

冒頭の下っ端を撲殺するシーン然り、序盤、上述のガラ悪ドライバーの運転する高級車の横に自分の車を貼り付けて挑発した後の運転したまま前座席2名を一瞬で射殺するアサシンっぷり然り、ギョロッとした目でニカッと笑った顔で冷静に人を殺していく様がサイコみに溢れてて実に怖い。

また、身体能力も半端じゃなくて、乗っていた車から命からがら逃げ出したマルコを執拗に追ってくるんだけど、まるでターミネーターのような均整のとれた走り方で「ハハハッ😀」と笑いながら追いかけてくるシーンはめちゃ恐ろしいし、追い詰めた橋で意を決して飛び降りたマルコを追って、自分もかなりの高さがある橋をジャンプしたかと思ったら見事な着地で余裕綽々なところ、また村はずれで必死に逃げるマルコに並走して、まるでパルクールのように家屋の屋根をジャンプして渡って追いかけてくるところなど命懸けの追いかけっこをしてるのに常にどこか余裕たっぷりで汗もかかない感じも不気味で脅威。

また、その中で印象的だったのは中盤での女殺し屋ユンジュとの戦いでもそうだけど、標的に対して、わずかに上(向かって右斜め上)の高所から追い詰めるorトドメを刺すところが、まるで「頭が高いぞ」と言ってるような、まさに傲岸不遜な「貴公子」という感じでキャラクターを表していて、めちゃくちゃかっこいいし、決まってた。

それでいて、冷酷な殺しっぷりに反して、キャラとしてどこかユニークで全身ブランドでバシッと決まっているからか、標的に足を掴まれた時に「この靴高けーんだぞ!」と言ったり、マルコを狭い路地に車で追い詰めた後逃げられて、舞い戻って車でバックした時にサイドミラーが壁に突っかかって折れちゃって「新車なのに…」と悲しそうにしたりと人間味を見せたり、またマルコとのトンネルでの追いかけっこの末、突然の雨でブランドスーツが濡れるのが嫌だったのか、足止めを喰らっても尚、焦ることなく口笛を吹きながら、手鏡で髪型チェックして「俺ってかっこいい✨」的な余裕たっぷりでルンルンでその場を去ったりとどこか掴めないキャラクターとなっていて面白かった。

で、バイオレンス的な側面だと、なんといってもその白眉は終盤での多対一の銃撃戦。対峙するのはショットガンを携えた御曹司ハンと大人数の手下に対して、貴公子はマルコを人質にとって身動きがとれない状態で膠着状態が続く中、ダークホース的にハンたちの背後からゴツいリボルバーでマルコを狙うJKガヨンの銃撃が皮切りとなり、遂にその火蓋が切って落とされるんだけど、多数の敵に対して冷静にその攻撃を交わしながら、1人また1人とピストルやハンから奪ったショットガン、その場にあったメス、またライトスタンドを使ったりしてやっつけつつ、部屋の端に逃げおおせたハンが繰り出すショットガンをここでも俊敏な動きでかわし、最後は同じショットガンでトドメをさして、見事たった1人で全員をやっつけちゃう超人っぷりがとにかくクールで痺れたなぁ…。

また、戦いが終わった後、全身返り血を浴びた姿もどこか華があるんだわ。これはかっこいい。

まぁ、このシーンだったり、結局のところマルコを追っかけるだけで殺す素振りがあまり感じられなかったり、自身に危機が迫っていることをそれとなく伝えたりと、マルコにとっては「敵」ではなく、実は「味方」であった、つまりこの映画「ダークヒーローもの」だということがわかってくると、その後「実は裏では…」な「どんでん返し」要素が絡んできて、えぇ〜!そういうことなん??という展開になっていき、なるほど、ここで前半のノワール調で「誰が味方で敵かわからない」作りが活きてくるわけだ、なかなか上手い!!

ただ、全体的に面白さに溢れているものの、やはり欲を言えばもっとバイオレンス要素だったり、貴公子の活躍、特にアクションが凄かっただけに観たかったなぁというのはあるかな。

あと、貴公子がいいやつってのはなんとなくわかっちゃう作りだったから実は味方だったというオチはちょい弱めと感じちゃう人もいるかも。

ただ、散々どんでん返しを喰らった後、極度な咳込みの後、咳を抑えるために覆ったハンカチから血が…=もしかして余命があまりない…からのエンドロールのまさかの「オチ」はそれまでの不気味な笑顔とはまた違う貴公子の本当の「笑顔」が見れたような気がして、すげぇ好きな落とし方だった。

やはり、流石のパク・フンジョン作品。「魔女」シリーズとはまた異なる魅力的なキャラクターと適度なバイオレンス、それと二転三転ストーリーと全体的には面白い作品で改めて韓国映画の水準の高さを思い知らされる作品となりました。ダークヒーローもの、アンチヒーローものが好きな人にはとっても刺さる作品だと思いますよ!!
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