ベイビー

ダンサー イン Parisのベイビーのレビュー・感想・評価

ダンサー イン Paris(2022年製作の映画)
3.9
オープニングがとにかくカッコいい!

冒頭は古典バレエの音楽(白鳥の湖?)で物語の印象を型取り、耳心地の良いクラシカルな音楽が続くなか、いきなり予想を裏切るようなロックテイストのオープニングが始まります。あのオープニングクレジットだけで、僕の中で作品への期待値が上がって行くのを感じました。冒頭の数分だけであれだけの昂りを感じたのは久しぶりのことです。

この物語は、パリ・オペラ座で「白鳥の湖」を公演している舞台裏から始まります。エトワールになる夢を持つエリーズはこの公演でプリマを任され、主役のオデットを演じることにより、バレリーナとしての成功の道を着実に歩んでいます。

そんな中、エリーズは公演中に舞台裏で彼氏の浮気を目撃してしまいます。エリーズはそのショックにより心身共に動揺を隠せず、演舞の最中、飛び跳ねたあと着地に失敗してしまい脚を捻挫してしまいます。

脚を怪我してしまったエリーズ。その怪我のせいでエリーズはエトワールになる夢も危ぶまれ、彼氏の浮気のこととも重なり、自暴自棄に陥ってしまいます…

と、ここまでの流れを見ていると、この冒頭部分はそのまま「白鳥の湖」の戯曲になぞらえられている気がします。

「白鳥の湖」のあらすじを簡単に説明すると、主役のオデットが悪魔ロットバルトから呪いをかけられ白鳥になってしまい、その呪いを解くには王子様の愛が必要なのですが、王子は他の人を愛してしまい、結局白鳥は命を落とすこととなりました。となっています。

これを用いれば“オデット”となるのがもちろんエリーズ。悪魔ロットバルトの“呪い”というのは、パリ・オペラ座の最高位であるエトワールになるという夢。“王子”というのは浮気をした元彼。エリーズは彼氏の浮気が原因で脚を怪我してしまい、エトワールになる夢が危ぶまれてしまいます。



*ここまで読んでいただいたのに大変恐縮なのですが、レビューを読んでいただいた方からのご指摘で、冒頭のバレエは「白鳥の湖」ではなく「ラ・バヤデール」というものだと分かりました。大変申し訳ございませんでした。この件に関しての訂正と解説をくりふさんより頂戴しましたので、是非くりふさんのコメントをご覧下さい。

くりふさんコメントありがとうございました。




エリーズは自分の不運を「白鳥の湖」のような古典バレエとダブらせ「白いチュチュを着て踊る物語は、みんなヒロインの悲劇で幕を閉じる」と言っていました。“もうそんな話がウケる時代じゃないのに”。と言いたげに、バレエを踊れない自分の運命にどうしようもない憤りを感じているようです。

そんな不幸から始まる物語
ダンサーの挫折と再生の物語

この作品のいいところは、バレエのような古典の要素をバックボーンに据えながらも、ちゃんと現代の感覚に寄り添っているところだと思うんです。その対比をうまく表しているのが“バレエ”と“コンテンポラリーダンス”であり、オープニングの音楽にも繋がってくると思うんです。

物語の結末も、主人公の未来も、バレエのような古典という定石を重んじる選択もあれば、コンテンポラリーダンスのように解放された多様性の中で新しい答えを見つける選択もある…

古典バレエのように保守的な考えを持つ父親。フェミニストとして現代的(コンテンポラリー)に生きているサブリナ。他にも様々な人たちの助けがあり、エリーズは挫折の中で心と身体のバランスが均等に保たれる場所を見つけようとしています。

個人的には後半が少し間延びしているように感じましたが、やはりダンスと音楽はよく作り込まれており素晴らしいと感じました。それと、身体をクラシックカーに喩えた比喩や「低い場所で転んだから高い所へ登れた」という言葉が秀逸。

あと一番驚いたのは「名古屋風チキンは、生姜と柚子が決め手」というセリフ。ここまで名古屋メシが世界に浸透しているとは、地元民としては素直に嬉しいですね。“名古屋風チキン”というのは“世界のやまちゃん”の手羽先でしょうか。それとも“風来坊”?

どちらにせよ大好きな地元の味。でも、百歩譲って生姜は分かるとしても、柚子って何? 名古屋に柚子が入った鶏料理なんて存在しませんけど?
ベイビー

ベイビー