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月のtaruponのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.5
見終わってお昼を挟んだ時間だったこともあるが、無性にがっつりとラーメンが食べたくなった(普段、そこまで頻繁にラーメンを食べるわけではない) 息を止めて見入るような気持ちだったので、消耗したのか・・・・生きるを感じたかったのか・・・

2016年に神奈川県で起きた知的障害者施設でおきた殺傷事件をもとに描かれた作品。


ストーリーは、森の奥にひっそりと隠されたように立つ施設の職員の、陽子(二階堂ふみ)とさとちゃん(磯村優斗)、施設にアルバイトで勤め始める書けなくなってしまった元ベストセラー作家の洋子(宮沢りえ)とその夫(オダギリジョー)の4人を中心に展開される。

その4人の中で、自問やお互いの会話の中で、「生きている価値はどこにあるのか(4人ともが自分の才能に対して何らかの疑問を持ち自信を持てないでいる)」「何を持って人と呼ぶのか(コミュニケーションがとれる?存在してくれているだけでよい?)」「見たくない現実から目を背けることは欺瞞ではないのか、自分の中でどれだけ許容できることなのか」といった問いが手を変え品を変え突き付けられる。


さとちゃんの至る道筋は、異常だし、優性思想でありえない!そう断ずることは簡単だ。確かに、タガが外れすぎだ。でも、それは向き合いたくない現実から距離がとれる人間のある種傲慢なのかもしれない。

施設は、街からは森を隔てて距離がとられていて、ふだん一般の人がその実態を目にする機会はない。入所者たちは職員に委ねられて、一部の問題ある入所者については、職員すらもあまり関与していない。
家族もあまり訪れない。
(これが現実をどこまで反映しているのかはわからないが)

でも、入所者達の人権に配慮した生活にするには、効率が優先されているし、何より関わる職員や看護スタッフたちが、自分自身の心を守るためにもある種の鈍感さと見ないスキルを身に着けている。

そして、そこに洋子の妊娠と出生前診断にまつわる判断の話が絡まってくる。

一幅の清涼剤と言うべきか、少し浮いた感じにさえなっている救いは高畑淳子演じる入所者の家族の存在だ。

勿論、殺人はもってのほかだ。あの解決方法は最悪だ。
劇中の台詞でもあったように、あれだけの人数を一人一人刺し殺せるのはすごくエネルギーが必要なはずでそれをやり遂げていること自体異常だ。
でも、最悪、異常だけれど、こういった問題全体に対しての歯切れのよい解決策は難しい。
これは、介護などにもつながるけれど、家族や個人の力には限界があり共倒れしないことを考えると、施設に頼らざるを得ない、でも、そこで働いている人達も人間なわけで、追い詰められない働き方をしてもらうような体制が必要で。そして、何よりも入所している人達自身が穏やかな幸せを感じてもらえるようにできれば何よりだ。
難しいのだけれど・・・・。

誰しもふたをするものを少なからず抱えて生きているのだと思うが、悶々としながらも自分の役割を担い、希望と明るさをどこかに感じながら生きられたら。
洋子と夫のこれからとその選択を信じられそうな気がするのが救いだ。
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