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映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー)のしののレビュー・感想・評価

3.6
クライマックスに関して言えば、わさドラのオリジナル版映画では個人的に一番グッときた。なにより、川村元気的なウェットさがなくなっていたのが本当に良かったと思う。

タイトルの演出が象徴しているように、本作は音楽の「楽」の部分にフォーカスしている。そりゃ湿っぽいトーンは合わないわけだ。ムシーカ人の悲劇的な過去を明かされてもすぐ持ち直すし、お決まりの「また会おうねー!」の別れすらカットしている徹底ぶり。

のび太は最初こそ授業のために仕方なくリコーダーを練習しているわけだが、その後ミッカと初対面し、彼女がのび太の演奏に合わせるように歌う歌声に魅了されるというイベントを初めに置いている。やがてのび太たちが異星人に見出されるのも、彼女と楽しく演奏したからだ。つまり、「音楽=『楽』である」という前提がちゃんと設定されている。

むしろ、この前提を丁寧に描きすぎているきらいはある。そのせいで115分とドラえもん映画としては異様なほど長尺化しているし、しかもその2/3くらいはワクワクする異世界の冒険というより、よく分からん浮遊島(しかもこのシチュエーションが昨年と同じ)で演奏レベルを上げていくパートになっているし。もちろん、そこで音楽の楽しさをアニメーションの楽しさとして出力しているのは良かった。「音楽って上手くならないといけないの?」という批判を完全回避できているかは怪しいが、技巧よりも皆と演奏したいという気持ちの方にフォーカスされるバランスにはなっていたと思う。

クライマックスに関しても、あれは「頑張って演奏する」場ではあるのだが、そういうある種強制参加のイベントがあるからこそ未知の楽しさに触れられるというのは自然なことだと思う。つまりこれは、冒頭の日常パートで描かれた小学生の「音楽の授業やだなー」という悩みの帰結を、SFスケールで描いたということなのだ。これは少なくとも、のび太が逆上がりをできるようになるかどうかを進化論と結びつけてウェットに描いた『新恐竜』の手口より好感が持てる。あるいは多様性の主張についても、結局「いい台詞言わせ大会」に終始してしまいむしろ洗脳じみた危うさがあった『空の理想郷』より、クライマックスでさらっと飛躍する本作の方が上品だと思う。

とはいえ、「のび太の『の』」にわざわざそんな役割持たせると逆に言い訳がましくない? とか、ドラえもんを救うイベントで合奏の魅力を示す必要ある? とか、クライマックスのあれは感動的だけど音楽なのか? とか、厳密に考えれば気になる部分もなくはない。何より気になったのは、ムシーカ人だのファーレの殿堂だのといった異世界要素が、今回は完全に音楽の楽しさ(ひいては地球が音楽に溢れていることの素晴らしさ)を示すための道具でしかないことだ。もっとあの場所を冒険してほしいし、異星人とも交流してほしい。これではマジで音楽の授業の延長すぎるだろう。

やはりドラえもん映画にはワクワクする冒険の楽しさを期待してしまうので、そこは来年以降にお預けにはなった。ただ、自分は『空の理想郷』で本気でドラえもん映画ダメかもと思った人なので、感動より楽しさを優先した上でグッと来させた本作はだいぶ巻き返した感があった。

※感想ラジオ
『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』は感動路線からの脱却!わさドラオリジナル版では上位?【ネタバレ感想】 https://youtu.be/bKhD7o6Yn0g?si=XNnNr82jaA-RavDP
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