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ほかげのinazumaのレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
4.5
戦争が終わった先にあるトラウマと混乱…『野火』『斬、』の流れを汲んだ作品ですが、終わっても終わらない地獄を描いた本作がいちばん怖いうえに、現在の現実と完全に地続きになっていて本当に恐ろしい作品だと感じました。
「"怖い人間"になることができなかった」というセリフが印象に残ってますが、怖い人間とそうでない人間の間をさまよっているような河野宏紀演じる復員兵は凄まじかった。『野火』の森優作演じる永松のような仲間と共に戦地にいたことを思うと、そのトラウマの大きさが身に染みて分かるような気がします。

幽霊や化け物への恐怖なんかじゃない、なんかよく分からないけどとにかく精神に突き刺さる恐怖を描く天才・塚本晋也の世界を久しぶりに劇場で体感できて光栄でした。
半焼けの居酒屋、焦げた襖や壁が生々しくておぞましい。相変わらず塚本作品は独特の暗さと美術が恐ろしく素晴らしい。時折、居酒屋が趣里演じる女の精神世界にみえることがあり、あるミニチュアを使った演出は強烈で、戦争の残骸=終わらない地獄が彼女の中に充満していることを表しているように見えて、音楽と趣里の演技も相まって圧巻の1シーンでした。

塚本晋也の目線であることがわかるグラつくカメラワークも健在。加えて故・石川忠独特の鉄を打ったようなパンクで美しく壮大な音楽も本当にカッコいい。本作の音楽はストックされていたもなのか、それともずっと前から『ほかげ』の構想があってその時から作っていたのか、気になる。

そして今回は珍しく塚本監督自身の出演がない。もうお年ということもあってか、塚本晋也枠は森山未來に託されたのか。塚本晋也自ら演じた『BULLET BALLET/バレット・バレエ』で恋人の拳銃自殺をきっかけに「死」と「銃」に傾倒する男と年代的にも重ねることができる。そして本作における「銃」は、彼に「神の思し召し」とまで言わしめる重要な役割を果たすことになり、昔と今の対比にもなっていて面白い。

📖パンフレットの感想📖
シンプルでカッコいい。
でもちゃんとぎっしりとしたコラムが3つ載っててボリューム満点で、撮影日誌には新作の情報がちょびっと書いてたりして大変満足でした。買いです!
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