ゆず

ほかげのゆずのレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
5.0
敗戦直後の混沌とした時代、誰しも真っ当に生きられない時代で足掻く者たちの物語。

半焼けになった廃屋で春を売る女を趣里が演じる。朝ドラとは全く異なる役柄で、「ブギウギ」が陽の演技なら「ほかげ」は陰の演技。俳優という人種のすごさを見せつけられた。
全編に渡って出ずっぱりの子役・塚尾桜雅の表情も良い。将来が楽しみな役者さん。

本作は桜雅くん演じる少年の視点から描かれる成長譚だ。少年が出会う大人たちは誰しも真っ当な生き方をしていない。それは敗戦の混乱期だから仕方ないことなのだが、少年自身も盗みで空腹をしのいでいる。
そんな者たちが寄り添い、束の間の安寧を享受する。女は幼い少年に生きる希望を見出しさえする。
また、ある男との旅の果てで、少年は悲惨な戦争の片鱗を見る。

女の想いも、男の恨みも、どちらも少年が背負うには大きすぎるものだ。結局それぞれの孤独な魂は交わることはない。
けれどたしかに少年は大人たちから何かを受け取ったのだろう。廃屋を出ていく彼が手にしたのは拳銃ではなかった。ラストの少年の背中にとても救われる思いがした。誰しもが真っ当に生きられない時代だからこそ、あの選択を尊く感じるのである。
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