じぇれ

マイマザーズアイズのじぇれのレビュー・感想・評価

マイマザーズアイズ(2023年製作の映画)
4.5
【世界で絶賛される串田壮史が切り開く、新世代ヒューマンホラーの未来】

森の中。母が娘をギコギコ切り裂いていく__!
さいたまSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映されるやいなや、SNSでは本作のポスタービジュアルが凄まじい勢いで拡散されていった。実はこのビジュアルはイメージにすぎないが、本編は負けず劣らずえげつないシーンから始まる。

ヒッチコック『裏窓』よろしく、ゆっくりとパンするカメラがダイニングルームに並べられた写真を捉え、母娘の歩みを伝える。しかし!最後の写真まで辿り着くや、あろうことかカメラは折り返し逆行し始める。まだ娘が生まれていない時の、チェリストとして脚光を浴びる1人の女の写真に向かって!

長編デビュー作『写真の女』同様、串田壮史監督は静謐で美しい画を積み重ねながら、人間の秘められた闇を巧みに炙り出していく。先述のショットも、直後の母のバストショットと化学反応を起こし、瞬く間に我々観る者の心をざわつかせる。なんて、用意周到!なんて、冷酷無残!

その後、物語は予測不能の転調を繰り返し、我々はおぞましい悪夢世界から逃れられなくなる。海外の批評家から《Jホラー第3波》と評されるのも納得だ。

しかし本作の真の恐ろしさは、SFやホラーといったカテゴライズには作品が収まりきらないところにある。そう、本作で露わになる狂った世界は、我々観客1人1人の心の中に存在しうるものなのだ。それに気づいた瞬間、私の全身に震えが走った。

海外の映画祭でデヴィッド・クローネンバーグやダリオ・アルジェントの後継者として絶賛される串田壮史監督は、ジャンル映画とアート映画を自在に行き来できるハイブリッドな才能の持ち主。そして、その奥には人間の心へのあくなき探究心が存在する。

ラスト30分。様々な愛が交錯し、おぞましい狂乱は幕を閉じる。西方正輝が奏でるチェロの音色を聴きながら、アナタの心にはどんな想いが去来するのだろうか? アナタが抱える愛ときちんと向き合えるのだろうか?

さぁ、ヒューマンホラーの未来を覗いてみないか?
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