こういちろう

市子のこういちろうのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

自分は社会的な課題を扱った作品が好きなので、スコアは甘めになっていると思います。杉咲花をはじめ、俳優陣の演技がよかった。みんな上手いと思う。サスペンス仕立ての前半はとてもよかったと思う。市子がベランダから逃げる時、そこまでして逃げたかったのかと思わせる表現がいいし、それが伏線にもなっている。プロポーズのシーンがその後にあるので、悲しさを倍増させる。喜ぶ杉咲の演技が上手なだけ、さらに哀しみが増す。
ただ、後半に移ると、少し違和感を感じ始める。また、市子に感情移入してきたことに少し疑問を覚えるようにもなる。
ラストシーンの後に、どうしたら市子は幸せになれたのだろうかと考えた。無戸籍だから幸せになれなかったというよりは、この作品に描かれた範囲では、難病の家族がいたから、ということになると思われるが、それだけで主人公がここまで複雑な人生を送り、どうしても幸せにはなれなかったとは思えず、少し強引に思えた。継父のやさぐれぶりが少し大袈裟でやり過ぎ感がある。幸せな時期もあったわけだから、あの家庭が決定的に悲惨な家庭であると考えることは難しい。例え、難病が悪化した後であっても。無戸籍であることは確かに生活に大きな支障を及ぼすが、事実婚を選択すれば、市子は事実上の夫婦にはなれたはずである。どうして逃げる必要があったのかわからない。無戸籍であることと難病の家族がいることの二つがこの作品のベースとなっているが、この二つが上手く整理されているとは思えない。幼少期にケーキも食べられず、母親の愛情も受けられなかったかのような前提があるが、実際に作品中で描かれている内容からすると、そんなことはなく、どうして市子がそこまで悲惨な人生を歩んできたかのような前提が置かれるのかの説明が足りないと思う。
確かに警察の捜査へのおそれはあっただろうが、市子には夢があったわけで、事実婚という形で家庭を持つことも不可能ではなかった。それなのに自死を選ぼうとする行動にも疑問を覚え、十分な説明がなされているとは思えなかった。