柏エシディシ

市子の柏エシディシのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.0
近年観た邦画の中でも指折りに"強い"映画。観たことを忘れられない引きずる映画だ。
何が強いって、先ずは杉咲花と若葉竜也。
申し訳ないけれど普段から全くと言っていいほどTVを観ない人間なので、杉咲花がこんな凄まじい女優になっているとは知らなかった。絶演。
そして、若葉竜也。若葉竜也はいつもすごい。出ている映画全部違う人なのに、本当にそういう人として生きているという実在感がいつもある(中田青渚との共演なんて「街の上」での2人が好きなのに鑑賞後まで想いも寄らなかったぐらい)
そして、映画全体も勿論見事で、始まりと終わりで円環を成す構成や回想中心の語り口を凡庸にさせない演出の巧みさ、印象的なショットも充実している。
特に長谷川が「市子は生きてますよ」と言った後バイクで疾走する後ろ姿を追い駆けるカメラには、身震いしてしまった。

それだけに。
"映画"として見事なだけに、この"物語"自体の何とも手放しで支持するのが憚れる想いも、また強くなる。
間違いなく市子は、ある種の犠牲者であり、それはこの国の強い家父長制気質の旧態とした法制度や介護福祉への理解の希薄さと脆弱さに起因するもの。
しかし、その彼女の決断と行動にまた犠牲となる人たちからの視点が抜け落ち、結局は、物語があのカタチにオトされてしまう事に、何とも言えない歯痒さと納得出来ないものが鑑賞後にまた、湧き出てきてしまった。
これがいわゆる凡百のサスペンス映画やノワールの様なジャンル映画ならば、この様な想いも抱かなかったかもしれない。
扱っている題材の切実さ故に、これで良かったのだろうか、という想い。
しかしそれも、もしかしたら作り手の意図なのかもしれない。既に、この物語にこれだけ頭と心を翻弄させられているのだから。
原作となった戯曲も機会があればぜひ触れてみたい。
柏エシディシ

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