マツシマ

悪は存在しないのマツシマのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.0
水の美しい自然豊かな町、水挽町
開拓3世の功は「便利屋」と称し、薪を割り水を汲み、娘の花と2人、淡々と暮らしている
そんな中、東京の芸能事務所がこのエリアにグランピング施設を作る計画が持ち上がり、地元住民向けの説明会が行われるが……


レビューを描くのにいくらかの勇気が必要な映画だと思いました
何の勇気か?
それは

「ワッッッケが分からん」

と言い切る勇気である
(そして私にはその勇気がある)


いや、別に批判しているワケではなく
「メッセージが誰にでも分かりやすく明白」
なタイプの映画ではないと私が思っているということです

正直観終わった直後の感想は
「は????????」
だったし、マジで意味分かんねえなこれ
どうすんのよなぁって帰り道も思ってました

レビューを覗くと(あまり良い行為とは言えない)
なんかちょっと「分かった」感じで書いてる人が沢山いたので、ワケ分かってない自分にちょっとだけ不安になったりもしました
キャッチコピーもすげえ問いかけてきてるし
でも別に自分が読解力カス人間でも映画観る目が養われていなくても、映画は観ていいし好きでいいし納税もしてるし、ちゃんと
「ワケ分からん」
て言おうと思いました




いや、終わらん

直後はワケが分かりませんでしたが、監督の他の作品を観て楽しんだ人間として、ただただワケ分からんものを撮る人だと思ってませんので、ここは1つ「理解が容易でないものを一生懸命考えてみる」という遊びに興じることにしました
それも映画の楽しみ方の、間違いない1つなのだから

そうして何となく見つけた「こういうことでは?」という感想には、多分に自分の願望とかモノの見方の癖、みたいなものが含まれるので、それもまた面白いです


私が思う(願う)この映画の、特にラストシーン周りの意味(そんなものが存在するならだけど)は
「ナメんな」でした

こう、色んな人への「ナメんな」が漂ってる気がしたというか
特に「東京の人たち」はものすごく分かりやすく「ナメんな」の対象として描かれていると思うのですが
(あまりにも”コンサル”過ぎるコンサル、少し体験しただけでめっちゃ田舎暮らしへの憧憬を高める人とか)
私はもっと突っ込んで、町の人たちにも「ナメんな」を感じました

主人公らしき男、功に対してもそうです
すげえ雰囲気あるし、自然にも造詣が深いし、圧倒的な存在ではあるのですが、でも言うても「最近ここに来た人間」でしかないんですよね
というか全ての人間がそうなんです
自然というものの時間のスケールに比べて、人間は「100年前からここに居る!」と言っても新参者に過ぎない
それをなんでコイツはまるで自然側みて~~~な顔してんだよ?あ?
と私は思っていました
めっちゃ車とか乗ってるしや

どいつもこいつも、ナメんな、と

まあ何をナメてるのかは分かんないんですけどね
ただ何となく、自然とか、大きなものへの畏怖みたいなものがこの映画の底にはあるよ~な、ないよ~な気もしました
(木々のシルエットはまるで人間の血管のようで、美しくて生々しくて恐ろしくも感じたので。血って恐ろしくないですか)


「ワケが分からん」
けども、これは「面白くなかった」とは違います
ワケが分からんのに楽しめました

それはやっぱり映像と音楽の力によるところが大きくて、ただの自然風景の映像なのに、動きは全然ないのに、画面に飽きることは全然なくて
「ああ、世界ってそう言えば密度がものすごかったんだよな」
と気付いたり
自然って情報強度というか情報密度というか、が実はものすごく強いので、眺めてても案外飽きないんだよなと
(撮り方と劇伴がものすごく仕事してるからなのですが)

あとやっぱり会話シーン!
とにかく私は濱口監督作品の会話シーンの「とりとめなさ」と「良くも悪くも演技っぽくなさ(上手くなさ)」が好きなので、一番好きだったシーンは車内でただ2人が会話するシーンです

これが観れればそれでもう良いので、後は堂々と「ワケ分からん」と言うのみです
いつかワケ分かりたいですけどね


ワケ分かるものに慣れきるのはそれはそれで恐ろしいことだとも思うので、こういうのも良いです
(ただこういうのって、作り手側は「めちゃくちゃ分かりやすいつもりなんですが……」て思ってることもあって何とも言えないのですが)

何だか
「すげぇクオリティで作った卒業制作」感がありました
なんでだろう




雑というか下手な金髪の人が出てきて、う~~~ん地方のディティールよ!と思いました
嫌な金髪!
お前は帰れ!!!