マツシマ

ヴィーガンズ・ハムのマツシマのレビュー・感想・評価

ヴィーガンズ・ハム(2021年製作の映画)
3.7
潰れかけの食肉店の店主が、ある日ヴィーガンの青年を殺害してしまう
死体の処理に困った店主は一旦それをバラバラにするが……


ヴィーガンがメインモチーフとして出てきますが、今作は風刺作ではなく、ブラックジョーク、いや横文字よりも「悪い冗談」みたいな作品と表現するのが的確かも

扱ってる題材というか、ヤっちゃってることは凄まじいしめちゃくちゃ倫理を破壊してるんだけど、異様なテンポの良さとポップさで笑っちゃう怪作かつ快作(これは笑っていいのか…?と一瞬戸惑う人もいるかも。私はノータイムで笑いました。おもろいもん)

最初のヴィーガンを手にかけるまで映画開始からわずか9分ちょい!
そこから10分ほどでそれをアレするワケで、めちゃくちゃスピーディー

カニバリズムなんて、ものすごく重厚なヒューマンドラマとして3時間たっぷり使って重た〜〜〜〜〜い映画になりそうな題材なのに、その辺の人倫上のハードルは物語30分以内にスンスンッと飛び越えてしまうのでした

思うにフィクションにおける「出来事の重み」は登場人物の「リアクションの重み」に比例するのではないでしょうか
今作の登場人物はそこのリアクションが実に軽快
いや、途中途中でちゃんと葛藤するし、故に90分ほどという最近ではやや短めの尺の映画なのにそんな短さを全然感じないんだけど
それでもやっぱり軽快な部類に入るので、映像ではものすんごいことが起こってるのに、こっちはすんなり受け止めて笑っちゃうワケです


出てくるヴィーガンはどいつもこいつも戯画化されていて、なんというか想像上(だけど報道等で誰しも一回は見たこともある)の「厄介な人達」であって、例えば「ゾンビ」みたいに「ヴィーガン」という一種のキャラクター属性として扱われているので、そこも見易さの起因かも
またこの偏見的な「ありそう」感が笑えるんだけど

で、ヴィーガン的な人達を皮肉ってるかと思いきや、いや確かに皮肉ってはいるんだけど、今作では凶暴なのはむしろ肉食側なので、「ヴィーガンごちゃごちゃうるせ〜」と「肉食ってマジ野蛮過ぎる」が同時に描かれており、つまり全方位をいじってます
ヴィーガンイベントでのワンシーンなんてブラック過ぎるんだけど、確かに肉食ってこういうことだよな……て部分もあり

悪い冗談だよ本当に!


題材はえぐいけど、私の大好きな「登場人物みんなバカ」というバカワールドなので結構敷居低く楽しめるコメディだと思いました
全ての物事をユーロ換算するライバル肉屋の妻大好き
バカで



時々「ヒトラー」て表現が出てくるのは、フランスだからかな〜とも思いました
パリ占領されてたし