マツシマ

オッペンハイマーのマツシマのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8
原子爆弾を開発する米国の極秘計画「マンハッタン計画」を成功に導いた科学者
”原爆の父”オッペンハイマー博士の半生を描いた伝記的作品



さ………3時間超え………

と、尿意が気になって気になってついつい一番端の席を取ってしまう自分のような人間にとって、それは挑戦の上映時間
それは映画との戦い
まさに膀胱の縮み上がる思いで真ん中の席で挑んだオッペンハイマー

長い
確かに長いんだけど
会話の応酬の妙なのか
はたまた時系列をズラした構成の上手さなのか
ダレたり、悪い意味での「長ぇよ」と感じることもなく
言ってしまえば尿意対策の肝心要は「映画に夢中になってるうちに忘れる」ことだったと、改めて思わせてもらいました

そのくらい、全編楽しめました

以下良かった点などを


・冒頭「大戦後にソ連のスパイ容疑をかけられたオッペンハイマー(オッペンハイマー事件)」から始まり、そこから博士の供述という形で原爆完成までの回想が始まる
時々時系列がオッペンハイマー事件へと戻る、など割とトリッキーな構成なのだけど、そのおかげで「この事件はどうなるのだろう?」というサスペンス的な推進力が生まれて、飽きずに観られる
上手ッ


・科学者の知恵と努力と探究心のドラマ
プロジェクトのために街を丸ごと作っちゃうとか、めちゃくちゃなことしてて凄い
アインシュタインが出てきたところとかやっぱりワッ……!てなってしまう
歴史とか科学、知的好奇心を満たすのが好きな人は楽しめると思う


・日本人とアメリカ人、そしてそれ以外の国の人では見え方が確実に変わる映画
科学者達の研鑽のドラマだと描いたけど、でもその研鑽の先にあるのは「原子爆弾」
これに関して、日本人という立場では冷静には見られない
科学的探究だろうが何だろうが、コイツらは結果的に人を焼いた
成功に喜ぶアメリカ人達を見て、その悲惨さを幼い頃から教えられてるこちらとしては、鬼畜共が……と正直怨嗟を覚えます
でも当然この映画はそれを内省的に、それなりの痛烈さで批判的に描いていて
焼かれた側の憤り、焼いた側の居心地の決定的な悪さ、傍観者、という様々な立場の人に様々な感情を抱かせると思うので、挑んでるなあと
喝采をグロテスクに描く、というのは良い演出だと思いました
科学者と同様、作家も道義的責任を負うのが現代ですから、批判的にせよ肯定的にせよ中立的にせよ原爆描くというのはそれ自体が大変なことだったろうと思います
特に1億ドル規模で作るのには


・画の良さ、衣装の良さ
ノーラン監督なので当然、画はとっても良いです
(色調と陰影で何となくノーラン作品だって分かるの何なの?特に会議室のシーンとか感じる)
私的には衣装が良かったなと
まぁほぼスーツしか出てこないのですが、大戦時期のアメリカのスーツだなって感じがして、見てるだけで惚れ惚れ……


・忘れられないラストシーン
とにもかくにもラストシーンが良い映画は良い映画です
途中がダメダメでもそれはそうなのです
(アニメの「人狼」とかね)
そして今作は途中もめちゃくちゃ良いのに、本当に、特にラストシーンが個人的に最高到達点でした
映画の一番印象に残ってるシーンがラストシーンというのは、当たり前なようで当たり前ではないのです
これは映画史に残るべき
ずっと反芻してしまう

あのラストシーンの先を、私たちは生きているのですから



しかしオッペンハイマー、一人の人間が背負わされる業としては史上最重クラスではないだろうか
業がカンストしてる
核兵器は本当に世界の在り方を変えてしまったので
だけどオッペンハイマーがやらなくても結局は誰か、それもソ連かナチスドイツの誰かがするし、止められない流れの中でその役割に当たってしまっただけの人だとも思うので、何ともやるせない
そのやるせなさ、業の深さ、本人のある意味でのどーしよーもなさが、実に良いバランスで描かれていたと思います

演技凄すぎ

ロバートダウニーJr演じる准将の果てしない俗物感は本当に必見です
最高!


歴史好きとしては、そこであの大統領の名前が出てくるか……!と盛り上げられたりも

傑作でした