KnightsofOdessa

Memory(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Memory(原題)(2023年製作の映画)
4.0
[戻らない記憶と消せない記憶、ならば未来は?] 80点

傑作。2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ミシェル・フランコ長編八作目。デイケアセンターで働くシルヴィアはアルコール依存症から抜け出して13年が経った。心の支えとなってきた娘アンナの独り立ちも視野に入り始め、禁酒会のメンバーからは似たような指摘もされている。ある日、妹オリヴィアに誘われて渋々参加した高校の同窓会からの帰り道、自宅まで後を付けてくる男がいた。ソウルという名の男は初期の認知症を患っており、なぜ彼女を追ってきたかも自宅への帰り方も分からず、朝まで家の外で立っていた。それが二人の出会いだった。シルヴィアは中学時代に年上の恋人に泥酔させられてレイプされた過去があり、ソウルもその犯人の一人だと思っていた(だから追ってきたと解釈)が、よくよく調べてみるとあり得ないことだった。追跡した原因も、彼の亡くなった妻が赤毛だったことで記憶が混乱したのだろうと推測された。シルヴィアは母親からレイプのことを嘘だと思われていて、ソウルは保護者たる兄アイザックから心配に託けて行動を制限されている。双方が近親者から"記憶"を信頼されてこなかったという点で共通している。そうして、二人は関係を深めていく。起こってしまった記憶は変えられないし、忘れた記憶は戻らないが、未来は変えられるのではないかと云わんばかりに、世界を恐れていた二人の心の壁はゆっくりと溶けていく。そもそもなんで同窓会に行ったのかとか、ソウルはシルヴィアのことを覚えているのかとか、アンナ関連の挿話とか(シルヴィアは自分に起こったことからアンナを過剰に守りたがっている点でアイザックにも似ている)、様々不可解な点や掘り下げ不足な点もあるのだが、不器用な二人の距離感の縮め方とかとても良かった。殆どの場合で長椅子に隣同士座って会話してた二人が、ある時に隣同士でキスをしていて徐々に正対していく様の、互いに向き直った瞬間の美しさたるや。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa