ケビン

52ヘルツのクジラたちのケビンのネタバレレビュー・内容・結末

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
2.4

このレビューはネタバレを含みます

原作未読で見ました。いやー…めっちゃ期待してたんだけど自分でもびっくりするぐらい合わなかった。

杉咲花さんの演技はとても良かったし、特に序盤の母親に愛されたかった思いを吐露するところとか泣きそうになってはいたんだが…

なんというか、悲劇的な結末を迎えることでしか被害者やマイノリティ側の人権を描けていないことが本当にキツいし、
ここ最近は登場人物が性的マイノリティであることを特に言及せずに、自分たちと同じ1人の人間として描いている作品も多くなってきている中、まだここまでセンセーショナルな扱いをしなくちゃ届かないのかということに怒りと悲しみが溢れてしまって感動なんてできなかった。


虐待被害者や性的マイノリティのSOSを、52ヘルツのクジラの鳴き声という他の仲間に届かない孤独なものとして描いていることもめちゃくちゃモヤモヤするし、実際に当事者の方たちにとってはそう感じてしまうのかもしれないが、マジョリティ側にもSOSに気付く人がいないとあまりにも希望がなさすぎるように思う。

アンさんが(新名にバラされるまで)性自認をカミングアウトできなかったのは、本人の性格というよりは周囲の環境や社会そのものがまだまだ成熟できていないことが大きな原因だと思うのだが、貴瑚とアンさんのお母さんしか反省や後悔をしていないのはどうなんだ…。気付かなかった貴瑚とお母さんだけが悪いみたいじゃん。

悪役の演技としては真飛聖さんも西野七瀬さんも宮沢氷魚さんも素晴らしかったけど、直接の加害者たちは反省もしなければ罰されることもないし、結局貴瑚たちしか頑張ってないし、周りの大人たちは何やってたんだよマジで。

そもそも父親であったはずの男たちの姿も責任も見えないのも少しバランスが悪いように思う。あと冒頭で貴瑚に「風俗上がりって本当ですか?」とか聞いた男、死んでいいよ。

アンさんもアンさんで、あそこまで貴瑚の人生に関わるならせめて貴瑚にだけは打ち明けてほしかったし、自分も愛する人に愛されていい人間だと思ってほしかった。

ただアンさんがそう思えなかったのは、(さっきも書いたけど)やっぱりまだまだ自分も含めて社会が成熟できていないから、声を上げても届かなくて傷つくかもと思わせているからであって、そこにもう少し焦点も当ててほしかったなと思う。他にも仲間がいれば、また違った結末もあったはずだと思うから。

長々と書いてきましたが、生きづらさや傷を抱えた人が、死ぬことしか逃げ道がないような話はもう全然合わないし好きになれないなとつくづく思わされた作品でした。
ケビン

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