さよこ

アイアンクローのさよこのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.2
【Fan's Voice独占試写会にて鑑賞🎬】
レビュー書いてる間に公開が始まってしまった🏃💨

🏋️全体の感想
偉大な父を持つ息子たちは同じくプロレスラーの道に進むが、輝かしい経歴にそぐわず幸せとは言えない状況になっていく。一見すると呪いのようだが、そうではなく家族の在り方について冷静に掘り下げた視点が印象的だった。

🏋️アイアンクロー
主人公の父親は、プロレスを知らない人でも馴染みのある「アイアンクロー」を生み出した人。だが、この物語は父親はすでに現役を引退したあとになるのでその功績はほとんど語られず、ただの毒親に見えてしまうのが惜しかった。彼を知らない自分のような世代からすると、前提情報が少ないように思え、上の世代の人たちと同じような熱量で見ることはできなかった。父親の経歴(=フリッツ・フォン・エリック)を多少調べてから観たほうが楽しめるかもと思った。

🏋️ザック・エフロン
ザック・エフロンは出演してなかった。いや、正確にいうと自分の知るザック・エフロンはどこにもいなかった。顔も雰囲気も体型も何もかも違っていて、爽やかなイメージからの脱却というか、とにかく別人でした。いつの間にか役者としてのキャリアの幅が広がっていて役作りに対するストイックさを感じた。筋肉つきすぎて歩きにくそうなところも含めて、キャラクターがスクリーンのなかで生きてると感じた。

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⚠️この先、ネタバレあります⚠️
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🏋️一家の呪い
この一家が囚われているとしたら、それは父親よる呪縛だと思う。子どもたちの意思を尊重しているような素振りを見せるが、父親が子どもたちを褒めるのは決まって、運動/スポーツ/プロレスに関することで、父親から承認されたい/父親を喜ばせたいという欲求を満たすには、やはりプロレスの道しかない。たしか心理学では"ピグマリオン効果"と呼ばれ、人間は他者からの期待に沿った成果を出す傾向にあるという。父親は無自覚にこの効果を利用し、子どもたちは父親の罠にハマってしまっているように思える。主人公は物語の序盤で「うちの一家は呪われている」と言っていたが、そのきっかけである父方の祖母からすでに負の連鎖は始まっていたのかもしれない。

🏋️子どもたち
祖母の代に不幸なことが続いていたという事実と、父親がその頃の苗字に戻して家庭を築いているという事実は、子どもたちにとって得も知れない不安に包まれたと思う。それは何か大きな力を信じるというよりも、例えばガンで亡くなった親戚がいれば自分もガンになるかもしれないという恐怖心を持つだとか、そういうレベルの"いつか自分にも起こるかもしれない未来"の解像度が上がるという話。自分の一家が呪われていると知ったとき、心のどこかで"自分は不幸になる人間なんだ"という考えがこびりついてもおかしくないし、それがトリガーとなって心が病んでしまってもおかしくない。その状況下で、メンタルを強く持たないといけない勝負の世界に飛び込み、長年に渡って父親からプレッシャーをかけられ、兄弟たちは次々にいなくなってしまう。主人公が生き延びたのは奇跡のように思える。

🏋️主人公の支え
弟たちと主人公の違いは彼女の有無だと思った。家族とは違う人間関係が出来た分、メンタルバランスが取れたのかもしれないし、弟や子どもたちを見守らなきゃという使命感でなんとか堪えていたようにも思える。

🏋️描いて欲しかったところ
全体的に表面的なエピソードをかいつまんで描いているように見え、内面的な描写が少なかったように感じた。父親はどんな思いで苗字を戻したのか、子どもが生まれたときにどんな子育てをしようと思っていたのか、長男が亡くなったのはその後の子育てに影響があったのかなどが分からず、父親の内面はずっと閉ざされたままだった。また、実質長男(ザック・エフロン)に至っても、リング上での活躍や知名度はほとんど描かれていないので、こちらもまた輝かしい経歴が伏せられた状態に勿体なさを感じた。バイク事故を起こした弟においても、オリンピックまで目指していた競技からの転向であったり、片脚を失ったときの哀しみやプロレスにかける想いは描かれず、やはり淡々とした描かれ方になる。末っ子に至っても明らかに身体が仕上がっていないなかでのデビュー戦となり、試合への葛藤や不安、音楽の道には進まないと決めたときの心境の変化なども描かれていない。実際に起きたことを淡々と描くというなら、この映画では存在しないことになっている兄弟(※映画では兄弟4人のプロレス人生が描かれているが、実際には兄弟5人がプロレスの道に進んでいる)についても触れて欲しかった。映画の描きたいものに振り切っていない半端な仕上がりになっているように思う。

🏋️その他、いろいろ
・円盤投げ、マイクパフォーマンス、音楽…子どもたちはみんなそれぞれプロレス以外の才能に溢れていたのに、強引に合わないレールに乗せられている。
・父親がその苗字に戻したのがとても謎。やっぱり不吉だ!新しい苗字にしよう!にならないのもメンタル強すぎて震える。
・父親が子育てに向いてないだけな気がする
・お給料から勝手に家賃引くのえぐすぎ。
・贅沢な暮らしをしているようには見えないから単純に経営が下手だったか、トレーニング施設にお金かけすぎたかのどっちかな気がする。
・父親を止めない透明化された母親。
・結婚式で義父に投げキスをする花嫁に顔をしかめる義母が可愛い。
・吐血しても相談できない親子関係
・プロレスラー同士の兄弟喧嘩は迫力がある
・急に天国の描写ぽいのが入るの萎えたな…
・子どもが亡くなっても平然としてるの怖い。俺の夢を叶えるコマが減ったと思っていそう。
・チャンピオンになっても次は2連覇だなんだって終わりのない戦いになりそう。不憫…。
・40までプロレス漬けで他の道に転職しづらいのはほんとに良くない。父親が子育てに向いてない。
・プロレスで目潰しってありなんだっけ…?
・ベルトをもらったのに嬉しくなさそう。
・注射はステロイドで鼻吸引はドラッグかな
・エンドロールに流れた👶の「高い高い〜!」の高さが尋常じゃなくて笑った。筋肉が有り余ってる。

【余談】
ザック・エフロンの変わりようを見ていると、誰かに追われている人はパンプアップするか痩せるかして体型をごそっと変えたら容易に見つからなそうだなって思った。脂肪のある/ないで顔つきも全然変わる。
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