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アイアンクローのnのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.2
フォン・エリック・ファミリーのことを全然知らなかったので、あまりのことに呆然としてしまった。逆にフィクションだったらこんな展開にはできないだろうと思うほど嘘みたいに悲しい話で、どうしてこんなことになるんだと嘆きたくなる一方で、すべての顛末が当然の帰結であることも自然とわかってしまう、悲劇としか言いようがない物語。しかしそれが登場人物たちの心情に寄り添いながら淡々と静かに描写されていくところや、終わり方には解放的な希望があるところが良かった。

自分勝手な野心に取り憑かれて家族全員を破滅させる親父の話…はよく見るけれども、この映画が特別哀しくリアルなのは、その親父も別に息子たちに対する悪意があるわけではないこと、兄弟が皆とても素直な性格で心から親を慕っていて、本当に取り返しがつかなくなるまで親に逆らうことなど思いつきもしないこと、そして兄弟同士が深い絆で結ばれているのにそれが(結果的に)何の助けにもならないことが描かれているからだ。(熱心かつ優秀なコーチである親と、幼い頃から徹底的な英才教育を施されてきた才能ある子…という図、メディアを通して我々も実例をいくつも見てきたよなあと遠い目にもなる。)悪役は確実にいるのだが、誰も見つけることができていないし、悪役本人にも全然その自覚がないというような状況で、順当に酷いことが次々と起きていく。誰が観てもやりきれない話だが、自分のきょうだいと仲が良い人ほど打ちのめされるのではないだろうかと思った。

兄弟全員の演技に泣かされたけど、その佇まいだけでケビンの不器用で優しい人柄を雄弁に語るザック・エフロンがやはり素晴らしかった。それにしてもハリス・ディキンソンの出ている映画は間違いないな。
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