HicK

SaltburnのHicKのレビュー・感想・評価

Saltburn(2023年製作の映画)
4.3
《田舎のユートピア。…》

【総括】
恋をした初々しい描写から人間の醜い部分までを表現する脚本・演出・演技に度肝を抜かれた。フェネル監督とバリー・コーガンの魅力・実力が光る作品。

以下ネタバレ↓






























いや、《田舎のユートピア》…じゃ無くてディストピアだった。でもオリヴァーから見たらユートピアなのかもしれない。

【オリヴァー】
憧れ、コンプレックス、支配欲、執着心…。彼が男性だから"男性性"ともとれるけど、たぶん性別関係ないと思う。「理想が高過ぎる→自己肯定感がドン底(=「ごめんなさい」が多過ぎる)→とどかないから妬む(=成りすます)→横取りする」ってところ?。「好き過ぎて憎い」は執着心からか。怖っ。

ただ、原動力は理解できたりする。自分も学生の頃、コンプレックスを隠すために嘘をついた事がある。かつ、自己肯定感は低めだと思う。そう考えると、極論的展開ながらも、自分の中にもこの"悪魔"が潜んでいるんじゃないかと、また別の怖さがあった。胸クソ悪過ぎる。それにしても、あの両親が出てくる場面は、自分の理解力を疑うぐらい衝撃のツイストだった。信頼してた人の嘘がバレる(不倫とか?)ってこのぐらいの衝撃っていう体感はできた。

【バリー・コーガン】
たぶん初めてバリーの顔ををまじまじと見た。序盤の彼はもう"目が恋してる"感じだった。微笑ましい役だなと思っていたのも束の間…。惨めさから垣間見える怖さがヤバい。真っ当な顔したサイコパス感。褒め言葉なのか分からないが、本当にどハマりしてた。アカデミー賞、くれてやれよ。

【フェリックスの実家】
金には恵まれてるものの、何かがおかしい家族。何かが足らない人たち。居心地の悪さMAX。それを満たし始めるのが"庶民"のオリヴァーっていうのも皮肉的。人って無いものねだりというか、全部は手に入らないんだなぁと。あの奇妙な環境ですら魅力的に見えてそうなオリヴァーも怖い。

【フェリックスの母】
ひっでぇ母親。人の悪いところしか見ない。利用しやすい。だけど、誇張が過ぎるだけで実際にいそうな人物像。上っ面だけで判断する偏見チックな人っぽい。流行りにすぐ流されそう。デマを信じて真っ先に振り回されるタイプ。…妄想し過ぎたけど、いそう。世の中の富裕層の悪い面を全て集めたキャラってところなのかな?。金のあるなし関係ないか。理解してくれる人がいなかったっていうのは、ちょっと切ない。

【その他】
・狂ってるだろ、最後のランチ。怖すぎ。
・見終わった後、序盤で学校の窓から外を眺めるオリヴァーがガラスの屈折で何重にも見えるシーンの秀逸さに気づく。

【エメラルド・フェネル監督】
人間の邪悪な部分を切り取りたい人なのか?。「プロミシング・ヤング・ウーマン」も今作も結果的にはとんでもない事態に発展するけど、その核の部分は肌で感じやすい点が魅力的だった。着眼点も好きだし、そこからどう行動に繋がるかも興味深い。

【真・総括】
悪夢の「君の名前で僕を呼んで」。見た後の感覚は「ミッドサマー」。何が怖いって、オリヴァーを理解できる気がしてる自分自身が1番怖い。反面教師にしよう。自分を褒めてあげよう。嘘はつかないようにしよう。でも早速オリヴァーばりにレビュータイトル嘘ついたけど。

本当は、

《怖さが他人事じゃない胸クソ作品》
HicK

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