幽斎

アメリカン・フィクションの幽斎のレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.8
【Amazonスタジオ作品シリーズ】原題「American Fiction」アメリカの虚構。アカデミー作品賞、主演男優賞、助演男優賞ノミネート、脚色賞はサプライズ。「哀れなるものたち」「オッペンハイマー」退けての受賞は価値が有る。AmazonPrimeで0円鑑賞。

Amazonスタジオ作品枠を復活。長らく御愛顧頂きました、クソ映画のスカベンジャーとの併用に為りますので、謎映画ファンの皆さん(笑)、引き続き宜しくお願いします。

Hollywoodでも№1の名門Metro-Goldwyn-Mayerを買収したAmazon MGMスタジオ制作。「007」をUniversal Studiosに獲られ万事休すのMGMを救ってくれた事は有り難いが、配信で垂れ流す作品を名門に創らせて良心は痛まないかと苦言を呈したいが、なんだ、チャンと用意して有るじゃん(笑)。「ウォッチメン」「グッド・プレイス」人気ドラマの脚本家Cord Jefferson監督を、MGMが抜擢。制作はOrion Picturesだが、制作会社「T-Street」オーナーのRian Johnson監督が、本作をバックアップして完成に扱ぎ付けた。

原作はPercival Everett著。2022年ブッカー賞の最終候補「The Trees」有名だが、アフリカ系アメリカ人文学の第一人者で、受賞歴もハーストン/ライト レガシー賞、ウィンダム キャンベル賞フィクション賞等多数。原作「Erasure'American Fiction'」Kindle版がお薦め。原作のErasureの意味は「黒人の表の顔の抹消」、鑑賞後に読了済。

「007」マニアックの私はJeffrey Wrightと言えばフィリックス・ライター役でレビュー済「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」等、彼はジャンルを選ばず多彩な演技が出来るが、本作のトリッキーなプロットを飄々と演じるのは流石。人種差別のリテラシーが必要でオスカーは難しいと思われたが、アカデミーの舞台に立つ事で本作が完成する意味は深い。もう誰も配信映画だと特別視しない良い意味での空気感も感じた。

皆さんは黒人と聞いて、どんなイメージでしょう?。「えっ、黒人に種類が有るの?」言われソウだが、残念ながら日本のコンセンサスも此の程度。東南アジアの人は黒人ですか?違います、彼らは肌の色が濃いだけで黒人では有りません。沖縄に住んで居た時、特に女性に「色が黒いですね」侮辱だと教わった。まぁ、私が京都人で格別に白いのも有るけど(笑)。基本的にアフリカに出自を持つ人が黒人、一番多いのはアフリカ系アメリカ人。

アメリカにはOne-Drop Ruleが有り、家系に黒人の血が一滴、ワンドロップでも流れれば黒人と言う法的な原則が有る。例えばオスカー女優Halle Berryはアフリカ系の父親とイングランドの母親のハーフなのに黒人。ケニア出身の父親とカンザス州出身の母親を持つハーフのBarack Obamaも黒人。皆さんも映画を観て「コレ、黒人が演じる必要が有るかね?」呟いた経験が有るだろう。Political Correctness、多様性の下、白人が演じた主役を黒人にして大論争に成ったアレとか、反動でポリコレ疲れで「バービー」本作と同じアカデミー作品賞候補。私達のレコグナイズ、認識も魂の叫びで一喝してくれる。

一見するとMetafictionだが、LGBTQが声高に叫ばれる筈の大手出版社や映画会社も平然と黒人を差別するが、露骨な差別用語は使わない、しかし、目に見えないステルス的「狡猾な差別」存在する。私はアメリカのロサンゼルスで就労経験が有りますが、黒人が少し良い車に乗るだけで窃盗だと警察官に停められる。黒人がポケットに手を入れてレジに向かうと警報を鳴らされる(拳銃と誤解)等、イヤと言う程見てきた。

ハリウッドは性器のセクハラ大王Harvey Weinsteinのお陰で、セクハラは大幅に改善したが、「Representation」メディアは多様性、人種やセクシュアリティを正しく反映させ、マイノリティの公正な描写を目指す事を申し合わせた筈。が、安易にヒロインに黒人を抜擢してお茶を濁し「多様性を支持してま~す」全く説得力が無い。差別もしませ~んと言いながら実態は1㎜も前に進んでない。白人はデリカシーの欠片も無い馬鹿ばかり。「結局は酔えば良いんだ、クオリティは関係ない」彼らはジョニーウォーカーだけじゃなく、ウエルシアの除菌アルコールでも美味しく飲むのだろう(笑)。

秀逸なのは一見マジョリティを描く様に見せ掛け実態はマイノリティ、と言う事。分かった気に為り白人が「私も貴方の気持ちが分るよ」黒人が主役の物語と言う事を理解しない頭カラッポのNonpoliticalこそ気持ち悪い。東洋人の日本も同様で「作家何てみんなコウだよね」同情を寄せるのも同じ。現在の民主党政権の様な綺麗事で「判ったフリ」が一番疎かで恐ろしいのだと本作が呟く点も見逃さないで欲しい。

プロットはモンクの立ち位置とBarack Obamaが同じだと言う事。黒人差別を訴える作品は、基本的に被害者視点で描かれるが、本作は黒人でも特権階級は存在する事実。アメリカ映画で家に絵画が飾って在れば富裕層、車のグレードで表すより分かり易い。因みに彼女は日本のスバル、モンクはスウェーデンのボルボ。家族が医学系だから教養が有るとは言えないが、Obamaもミリオネアで移民の気持ちが分かる訳が無いのと同じく、黒人のモンクも黒人扱いが嫌い、内心で黒人をバカにするが、表向きはビジネス黒人として活動。ラストで「おまゆう」カウンターパンチが見事に決まる。

過去の名作、Mel Brooks監督「プロデューサーズ!」、Alexander Payne監督「サイドウェイ」シニカルを足して水で割ったらアメリカン(父親が良く使うフレーズ(笑)、的なコメディに、Robert Altman監督「ザ・プレイヤー」ウィットに富んだ厭世感で、作家が自分が描きたいモノ、読者が求めるモノとのギャップを、インテリジェンスなハイブロウに昇華させた。セクシー田中さん事件の様に純粋なクリエイティヴは存在するのか?。

本作はメタフィクションの様でフィクションじゃ無い。ソレをアカデミー会員も自責の念を込めて認めたから、脚色にオスカーを与えた。にも関わらずアカデミー授賞式では、アイアンマンと、哀れなるものたちの受賞者が、共にアジア系オスカー俳優を壇上でスルーする大失態を演じた。貴方達こそ哀れなるアメリカン・フィクションなのだ。

バズるコンテンツ論か、世間知らずのアート論か、現実を受け入れる事は誠に難しい。
幽斎

幽斎