OASIS

恋恋風塵(れんれんふうじん)のOASISのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

鉱山のある村で育った幼馴染の男女の淡い恋愛模様を描いた映画。
監督は「悲情城市」等のホウ・シャオシェン。

トンネルを抜けるとそこは緑の世界だった。
爽やかな新緑が眼前に広がるオープニングは、都会の喧騒から離れオアシスに迷い込んだようなノスタルジーの風が吹き抜ける。
カメラは山村や山々の風景を中心に捉え、人は風景の中の一部としてのみ存在するかのように雄大な自然へと溶け込み同化していく。

中学を卒業した幼馴染のアワンとアフンは、家族を養う為台北へと働きに出る。
アワンは印刷所で働きながら、そしてアフンは仕立屋で働きながら徐々に都会での生活に慣れて行く。
台北への列車を待つ間プラットフォームで起きる一騒動。
それが一段落した後、もう既に台北へと移り住んでいる場面へと変わっていて、そこまでの過程をすっ飛ばしたかのような大胆な省略がストーリーを追おうとするやや難解に思える辺りだった。
「何年後...」というテロップも「僕と彼女はこうこうこういう風にここでこんな生活を送るようになった」というような状況説明も無く、当たり前のように二人が暮らしている光景がそこまでの経緯を物語っていたりする。

タイメックスの時計、妹からの手紙、父のライター。
様々なアイテムから遠く離れた家族との繋がりが感じられたりもする。
アワンは印刷所を辞め、新しく配送の仕事を始める。
アフンの勤める仕立屋に何度も通い続けるアワン。
小さな格子窓越しに絡み合う視線、徐々に募っていくお互いへの想い、近くて遠い距離、幼馴染という壁。
「愛している」と一言口に出せば、その淡くて脆い関係性が崩壊してしまうのではないかという危険を孕んだやりとりには「ずっとこのままが良い」と思わせる触れてはいけない聖域のような空気が流れる。
激しく荒ぶる波がもどかしいアワンの感情を表しているかのように激しくうねっていた。

台北から戻ってきたアワンの元に、兵役の知らせが届く。
アワンを見送る道の所々で聞こえる爆竹の音は、門出を祝う拍手のようであり、待ち受ける銃弾と爆発飛び交う日々の幕開けを暗示しているかのようでもあり。
退役までの387日間、アフンに手紙を送り続けるアワン。
指折り数える日々を殊更悲劇的にそしてドラマチックに描く訳でも無く、お互いの想いの強さを感じているからこそそこにある寂しさや孤独感をあえて描こうとはしないある種のドライさがある。

言葉にして言わずとも、オーバーな表情で喚き散らさずとも、目に見えるほどの心の叫びが聞こえてくるような風景描写が人物以上に騒々しく騒ぎ立てる。
ともすれば激情とは程遠い淡々さではあるが、そこに語り過ぎない美学を感じる作品でもあった。
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