ヨーク

ロッタちゃん はじめてのおつかい 2Kリマスター版のヨークのレビュー・感想・評価

4.0
アストリッド・リンドグレーンは好きなのだが彼女の映画作品はあんまり観たことがなかった。というわけでこの『ロッタちゃん はじめてのおつかい』も初見なのだが、いや面白かったですね。思ってたよりも全然面白い映画でした。
いや本当に素晴らしい映画だったと思うのだが、しかし本作に対してはあぁだこうだと長文で語るのもなんだかなぁという気はする。これはもう1にも2にもロッタちゃんかわいいとバムセかわいい映画で、それ以上は特に何も言わなくていいんじゃないかという気がするのだ。それ以上は蛇足というか無粋というか、テーマがどうだとか構成がどうだとか演出がどうだとか役者の演技がどうだとか、そこら辺は別に二の次三の次ではないだろうか。これはもうロッタちゃんとバムセかわいいだけでいいし、それだけで満足して帰ってもいい映画だと思うんですよ。ただ、悲しいかな俺がそう思うのはいい年こいた大人だからで、現役のちびっ子が観たらそれだけでは終わらないっていうか、むしろその部分はどうでもよくて別の部分が印象に残るんだろうなとは思うんですけどね。
ま、それはともくお話はというと、ストーリーもなんてことはなくて5歳のロッタちゃんがわがまま放題して周囲を巻き込むようなお話(と書きながら思ったが、年齢といい、もしかしたら『クレヨンしんちゃん』は本作の影響受けてたりするんだろうか)なんだが、そのわがまま放題の中にもロッタちゃんの自立心が透けて見え、子供のかわいらしさと強さの両面が垣間見えるというお話。そんな生き生きとした子供の描写をハートフルなホームドラマをベースとして描いている作品ですね。
そういう子供のプライマルな部分を描いた物語なので、上記したようにそのかわいさと力強さをただ眺めればいいと思うわけですよ。そういや先週末からYouTubeで『アルフ』が一週間限定のエンドレス配信されていて、家にいるときはほとんどかけっぱなしにしてあるのだが、その『アルフ』を見てるときにも同じようなことを感じたな。共通するのは子供という名のエイリアンのかわいさと憎たらしさと強かさが存分に描かれるホームコメディだということだ。大人の目線でロッタちゃんやアルフを、かわいいなぁ、と思いながら見ているかと思えば、場面が変わると聞き分けのいい大人たちの態度に憤慨して一人で問題を解決してやる! と張り切ったりする。リンドグレーンが紡ぐ物語というのはロッタちゃんシリーズに限らずにそういった両面性があり、大人から見た子供への目線と子供から見た大人(および大人たちの世界)への目線の両方があるんですよ。そこのバランスと鋭さが本当に素晴らしくて、無力な子供をかわいらしく愛らしいと思ってしまう反面、その子供は大人には理解できないパワーで大人の世界のルールと戦って成果を得たりもするわけだ。だから大人が余裕ぶって、ちびっ子はかわいいねぇうんうん、と愛でるだけのお話ではなくて、そのちびっ子の目線を忘れてしまった大人は不意に背中から刺されてしまうような強烈な子供のエネルギーを描いた物語でもあると思うんですよね。たまたま最近見ていたから名前を出しただけだったのだが『アルフ』だってそういう作品だっただろうと思う。
大人側からの目線と子供側からの目線がどちらも素晴らしく高次元な水準で表現されているといえば、直近の名作ではNetflixで配信されている『ヒルダの冒険』シリーズもそうであろう。やや子供目線の方が強くなるかもしれないが、先日感想文を書いたばかりの『FLY!/フライ!』のイルミネーション印のアニメにもそういう要素はあろう。そこら辺のタイトルにピンとくるものがあるのなら本作も最高に楽しめると思う。
くどくどと長文で感想を語るのは野暮だと言いながらいつもと同じくらいの文章量になってしまったが、ま、大人からの目線で「ロッタちゃんとバムセかわいい!」だけでもかなり面白い映画なのだが、そこには子供の立場で物語を紡ぐリンドグレーンの感性と手腕もあって本当の意味で生々しくて瑞々しい子供から見た大人の世界というのも描かれているのである。そのことに対して大人の観客が全く無自覚なのもどうなのかなぁ、とは思うところである。とは言うものの、やはりストレートにロッタちゃんとバムセのかわいさを堪能したい映画でもあるのだが…。
あとこれは余談ではあるが、高畑勲か宮崎駿のどちらかはやっぱリンドグレーンの作品をアニメ化しておくべきだったな、と今さらにして思い直しましたね。面白かった。
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