ヨーク

ブリックレイヤーのヨークのレビュー・感想・評価

ブリックレイヤー(2023年製作の映画)
3.8
俺が本作のことを知ったのはSNSで相互フォローの人が呟いていたからなのだが、いうても年に120本くらいは劇場で映画を観ていてそれと同じくらいは劇場で予告編を見ている俺が全く知らなかったっていうのはさすがに宣伝しなさすぎじゃないか!? と驚いてしまったよ。だって本作の監督レニー・ハーリンですよ!? いやまぁ俺もそんなにレニー・ハーリンの大ファンっていうわけでもないけどさ、でもレニー・ハーリンといえば『ダイ・ハード2』の監督ですよ? アナタ『ダイ・ハード2』といえば人生のオールタイムベスト10とかに入れる人がいてもおかしくはないくらいの超傑作アクションじゃないですか、まぁ俺は1の方が好きだけどさ、でもあれほどの映画を撮ってその後もいくつかヒット作を出している監督の新作としては非常に寂しい宣伝と公開規模だなぁと思ったんですよね。ま、今年の3月は個人的にほとんど『FF7リバース』に費やしてしまったのでその分広告とかに目を向ける時間が少なかったとかもあるかもしれないけどさ…。
そういうわけでSNSの宣伝力によって本作の存在を知った俺は観ることにしたわけだが、一応前もって言っておくこととしては正直期待は全くしていませんでした。いやだって10年くらい前だと思うけどレニー・ハーリンのヘラクレスもの(タイトルも忘れた)がすげぇつまんなくてさ、あと『ダイ・ハード』の焼き直しみたいな作品(それもタイトル忘れたけどタイトルもダイ・ハードぽかったと思う)もすげぇつまんなくてさ、そりゃまぁ期待値が上がるわけないよっていう感じだったわけですよ。上記した2本にスコア付けるならまぁ高くて3.3とかそれくらいじゃないだろうか。その日の気分次第では3.0とか2.9とかもあり得ると思う。
でも本作はそうじゃなかった! 見てもらえばわかると思うが3.8というのは俺の中では平均よりやや上くらいの十分面白映画と言っても差し支えないスコアなのである! 一ミリも期待していなかったから、というのはあるにせよ十分面白い映画でしたよ。いやほんとにネタ的な意味とかではなくて普通に面白い映画だったのである。こっちはHAHAHA! またクソ映画観ちまったぜ! くらいの感想になるだろうと思っていたというのに!
ハッキリ言ってお話自体はどうということはない。元CIAの凄腕エージェントだった現レンガ職人(ブリックレイヤー)の主人公が昔の因縁とか何やかんや色々あって現場復帰し、ギリシャで潜入任務とは名ばかりのドンパチを繰り広げるというものである。ぶっちゃけストーリーはそれ以上のものは特にないのでそこに関しては何も言うことはないのだが、本作はその見せ方というかね、もう一言で言えば冒頭掴みのアクションシーンが最高に面白かったんですよね。
元CIAの主人公は現場復帰の要請を受けるのだが「自分はもう引退した身だ」とそれを固辞。そして今の自分の仕事場である工事現場へと戻るのだが、そこへ暗殺部隊が襲撃! そこからのアクションの数々の格好良さよ。そこまで金がかかってるというわけでもないのに様々なアイデアと多彩なカメラワークの見せ方でいきなりクライマックスのような高揚をもたらしてくれるのである。しかもそのアクションシーン、途中から豪雨が降り出すのである。荒木飛呂彦の言を引用するまでもなく雨の中の決闘というのは格好良く燃える。本作は冒頭でそれほど燃えるシーンがあるのである。もうね、冒頭20分だけでチケット代の元は取れたなと思ったもん。
そして完璧な掴みを受けての中盤や後半も率直に言うと冒頭のアクションほど燃える展開はなかったものの最初に入ったギアが激しく失速するということもなくベタではあるものの最後まで堅実なアクション映画だったのである。まぁ映画の内容といっても8割くらいは銃撃戦と爆発とカーチェイスが占めているというバカみたいな映画というか、実際にバカみたいではなくてバカ映画だとは思うがその一方でそのバカなストーリーの中にも芯のある映画ではあったので、そこも嬉しい誤算的な良い部分でしたね。
というのもですね、ストーリー自体に特に目新しいものやびっくりするような展開は無かったのだがお話の土台となる部分にしっかりとあるのはCIAを通した現代アメリカへの批判なんですよ。お前ら自分たちの都合だけを優先してやりたい放題やってたら他国からだけでなく自国内の人間からもそっぽ向かれるぞ、というメッセージをひしひしと感じるような、わざわざ映画を撮ってそのストーリーに組み込んで語るだけの価値のあるお話にはなってると思うんですよね。いや繰り返けどそこまでキレのいい演出や深い考察があるわけではなくてアメリカの、その中でも現場に出ることはなくデスクの前に座ったままで他国や自国の現場の人間を軽視するような傲慢な権力者に中指立てるだけのお話ではあるのだが、その中指の立て方が勢いあっていいんですよ。その辺は『ニューヨーク1997』とか『エスケープ・フロム・L.A.』のように腐った権力構造に一発かましてやれっていう現場の職人の意気を感じるような映画だったと思いますよ。
そういう気骨と勢い、精神的な部分だけでなく実際にアクション映画としても面白いというものをすっかり隠居モードに入ってると思ってたレニー・ハーリンがお出ししてきたので、まぁ散々書いてるようにびっくりしたわけです。本当に普通に面白かったからな。『ダイ・ハード』のスパイ版と言ってもいいくらいに主人公が怪我しまくってボロボロになっていくさまも、そうそうコレコレ! っていうお家芸感があってよかったな。無敵の最強主人公とかじゃなくて身体中傷だらけになるのがいいですね。
もちろん世紀の傑作とか言うほどのもんではないですけど十分に面白い映画だったので、特にアクションものが好きなら観ても損はないと思います。予想外の拾い物という意味でもオススメ!
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