うっちー

フジヤマコットントンのうっちーのレビュー・感想・評価

フジヤマコットントン(2023年製作の映画)
3.5
公開前の監督のツイートなどを観てある程度期待して観に行った。前作『東京自転車節』は自らが被写体になり、ジリ貧なUber eats配達員としての苦しい日々を活写した作品だったが、今回は視点をがらりと変えて、監督の母親が勤める障害福祉サービス施設にカメラを据えたドキュメンタリーになっている。

施設に通ってくる人たちは、綿花や花きなどの栽培をしたり、収穫した綿から糸を紡ぎ、織物を織ったり。またある人は絵を描いていたり、ただ寝ている子もいる。男女混在、年齢的にも少し幅があるようだけど、若い人が多いよう。そんな彼らを、カメラはとにかく丁寧に追う。一人ひとりの役割や活動、歩く様子、語り合う様子などなど。この緩やかさはなかなか見ごたえがあった。特に織物をするめぐさん、ゆかさんの、同じ作業をしながらもそれぞれの性格が出た動き方の違いなどは、ただの作業風景なのにじっと見入ってしまう面白さだった。

皆がみな、生産活動をしなくてもよいし、しなかったからといって罰があるわけでも、減点評価されるわけでもない。そんな自由な場所がみらいファーム。どういった主体が運営されているのかなどの具体的な情報も問題点も本作では言及されないが、比較的よく話す方の話ぶりから、それぞれが抱える夢はもちろん、諦めや自分を客観視するクールさみたいな感覚が伝わってきた。だからこそ、監督、そしてカメラにはもう少しその辺りの現実感に迫ってみてもよかったのでは、と感じた。明るさ、多幸感を演出しようという意思が強すぎるが故か、淡々と変化のない場面が続き、途中ちょっと眠くなってしまった(ごめんなさい💦)。

聞けばカメラは監督のみでなく、あと二人が加わり、それぞれの感覚を活かしたのだとか。うーん、素人考えでは、それはどうなのかな、と。もしかしたらコスト的な問題かもしれないけれど。

また、公開はたった1館かつ1日1回の上映からで、時間をかけて各地に回るようだが、もう少しいっぺんに何館かにかかるとか、1日に何回か上映とか、出来なかったのだろうか(そうなんでしょう、きっと)。観た方が、触れた方がよいとか、観たい!という人は多そうだから、あえてこの不便さを言いたいし、また残念に思った。きっと草の根的に各地で上映会などが開かれるタイプの作品かな、とは思うけれども。

とにかく、なかなか目にすることができない場面がたくさんなので、貴重な映画であることは間違いない。だけど、この若くユニークな才能の持ち主である青柳監督にとってはまだまだ課題があることも否めない作品ではあると思う。
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