うっちー

落下の解剖学のうっちーのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.3
予告段階からかなり気になっていた作品。長い尺を存分に活用した作りで、個人的にはかなり面白かった。やはり西欧は言葉や議論、対話のカルチャーだな、とその凄みを堪能した。

流行作家、サンドラは夫のヴァンサンと視覚障がいのある息子のダニエルと共にフランスの山奥に暮らしていた。ある日、夫が家の前庭に倒れ、死亡しているところを息子によって発見されるという事件が発生。転落死に見えた夫だが、死因は判然としない。山奥の家、居合わせたのはサンドラと息子だけという状況で、家族の不幸に見舞われた妻という立場から、やがて夫殺しの容疑者となるサンドラ。裁判劇のなかでやがて次々と明かされるサンドラ自身と夫婦の秘密。検察側の激しい追及に、古くからの友人である敏腕弁護士を携えたサンドラはどう立ち向かうのか。そして何より、愛する家族の死に加え、両親の争いに巻き込まれるという不運に苦しむまだ11歳のダニエル少年の姿を、極限まで捉えるような作品であり、脚本。その徹底ぶりに唖然とする。子供の権利を守ろうとするフランスならではの法廷での配慮は見えたものの、子供であることで逃げようとしないダニエルの意志の強さと、彼が証言する日の前にしたある決心の惨さ、辛さ。運命の残酷さを背負う重さと悲しみを感じた。

サンドラに関していえば、かなりのやり手な女性であるとは思う。よくいえば逞しいけれど、かなり自己正当化が上手く、自己防衛力の高い人なのだろうとは思う。本作の事件の核心でいえば、かなり黒に近いグレーに見える。あの有能な弁護士だって彼女への疑念を隠してはいない(あの弁護士よかったなー❤️)。しかし、女性としての目線からすれば、彼女の夫の不満は長らく多くの女性が感じてきたこと。家事、育児のために、女性たちの多くは自分の時間、才能、夢も捧げて夫や子供に尽くしてきた。逆転した状況を一方的に妻の非として責めるのは、よく考えるとどうかとは思う。まぁ、ちゃっかりしているところは狡く感じられるだろうし、浮気に積極的なのは問題かもしれないが。でも、作家なんてプロットだけ拝借しても書き上げることができるかどうかが勝負だとも思うので、結局彼女はかなり有能なのだと思う。

とにかく、生々しい人間の業を知るには格好の泥沼裁判劇であり、核心を敢えて描かないにも関わらず、判決後の勝者の放心を漏らさず捉えるなんて、なんて鋭く意地悪なの!と驚く作品。恐れ入りました💦
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