Masato

サンコーストのMasatoのレビュー・感想・評価

サンコースト(2024年製作の映画)
4.2

サンダンス映画祭で称賛を浴びた注目作。サーチライト・ピクチャーズ作品。脳がんを患い寝たきりの兄をもつ妹ドリスの苦悩を描いたローラチン監督脚本の半自伝的青春ドラマ。

全く告知してないから配信作品に目を張り巡らしてないと出会えないのが辛い。小粒ながら本当に良い映画だった。誰も悪くないのにみんなが苦しんでる辛い物語だけど、これもまた一つの現実であり、でもその中から自分への救いを導き出そうとする姿をじっくりと描いていてじんわりと感動する。作風は穏やかでありつつも、肌身で感じる感情は生々しく苦しい。

監督はかつての自身をドリスに投影して、その時に感じた楽しみや苦しみのすべてを赤裸々に描き出した素直さが素晴らしい。そして、ドリスを影で支えるウディ・ハレルソン演じるポールは今の監督そのものなのだろう。彼の存在は今の自分からかつての自分への教えでもあり、でもそれが正解とも言えないバランス。今まで監督がどのような感情を経て生きてきたのかが手にとって分かるような切実な物語で素晴らしい。これを109分にまとめたのは流石。

兄の看病で大切なティーンの時期を普通に過ごせなくて、自分でも兄に付き添わないといけないことは分かっているけど自分の大切な時期を失い続けていることの辛さもあって逃げ出してしまう。かといって普通の若者として楽しく過ごそうとしても、苦労を味わっているせいでなかなかみんなと同じようにはなれないし、かといって兄の看病生活も苦しい。この居場所のなさがなかなかにリアルで良い。

ポールが言うように、亡くなってからじゃないと分からないことってある。死は死である。息を引き取ったらあっという間に消え去る。だから生きているうちはなるべくいてあげるべきだという言葉もよく分かる。でもそれが正解じゃない。それぞれにそれぞれの事情があってそのときにすべき選択をしていることもまた事実。本当のことは当事者にしか分からないし、そこに他者による倫理があってよいのかと描くのはすごく良かった。

でも最後にポールが放つ言葉だけは紛れもなく大切なことだろうと思う。普通じゃなくたっていい。かつての自分の振る舞いに対して、それをそっと口にして終わる優しさ。同じような思いをしているティーンの子たちに対する最高のエールだと思う。嗚呼良い映画

新人俳優とベテラン俳優のかけあいって何故こうも感情を揺さぶられるのだろうか。ニコ・パーカーのフレッシュな存在感と円熟味を増したローラ・リニーとウディ・ハレルソンのバイプレイヤーぷりが素晴らしい。
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