円柱野郎

ルックバックの円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

ルックバック(2024年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

藤本タツキの同名漫画の劇場アニメ化作品。
小学生の藤野は学年新聞で4コマ漫画を描いていた。
ある日、不登校の京本も学年新聞に4コマ漫画を載せることになったが、その漫画を見た藤野は京本と自分の画力の差に愕然とする。

原作は既読。
そしてその原作にしてこのアニメ作品は、考えうる中でも完璧な形でのアニメーション化の作品だと思う。
漫画を読んだ時にイメージしたままの情景でキャラクターが、風景が動き、そしてそのテンポで話が進む。
58分という中編程度の上映時間だけれど、それも原作をリスペクトして余計な枝葉を付けようとしなかった結果だろう。

話としては藤野のクリエイターとしてのモチベーションやメンタルを描いた作品だ。
周囲にもてはやされたいという感情で描いていた小4時代。
ライバルに負けたくないという感情で描いていた小5~小6。
自分のファンであり共作者という京本を得て創作に没頭した中学~高校。
全てが作品を作る気持ちの動輪でもある。

藤野の創作意欲を引き上げてきた京本という存在。
「じゃあ藤野ちゃんはなんで描いているの?」
という問の答えこそ、藤野の漫画を読んだ時の京本の笑顔なのだ。

この作品はその二人の出会いと別れを描いていて、作中で京本は不幸な事件によって亡くなってしまう。
それでも藤野は再び描き始める。
それは死んだ京本への弔いでもあるのだろう。

劇中で描かれる京本を襲った不幸な事件は、2019年に起こった「京都アニメーション放火殺人事件」を想起せずにはいられない。
原作の発表が2021年なので、間違いなく事件の影響下にもあると思う。
だからこそこの作品は、藤本タツキにとっての京アニ事件に対するアンサーでもあるのだろうと感じる。
志半ばで…しかも謂れのない理由で殺されたクリエイター達に対する、クリエイターとしての決意表明なのだと、そう感じる。
その決意がにじみ出ているからこそ、その意を汲んだこのアニメーションは原作に対しても最大限のリスペクトを持って作られたのではないだろうか。
円柱野郎

円柱野郎