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幕末太陽傳のKuutaのレビュー・感想・評価

幕末太陽傳(1957年製作の映画)
4.4
落語をベースとした、日本を代表する喜劇映画。白黒なのに(あるいは細かい部分が見えない白黒故に?)、リアルな生活感が画面全体に溢れている。遊女の着物を普段着としてサラッと着ている感じ。毎晩繰り返されるどんちゃん騒ぎと、それを支える遊郭の人々。今の時代の人が昭和の再現なら出来るように、60年前であれば、幕末の空気もリアルに再現可能だったという事か。沢山の人と、巨大な旅館のセットを生かした撮影が、金がかかっているし面白い。

博打をしないと言った直後の花札や、首を切ると言った直後の薪割り、馬の骨とも知れぬ客→フランキー堺のアップ、といった編集がコミカル。全編テンポが良いし会話もめちゃくちゃ早い。

複数の落語をベースとしながらも、多くのキャラクターが絡み合う群像劇として、脚本がよく出来ている。幻のラストシーンのエピソードを調べて、庵野監督がTVシリーズのエヴァが目指していた作品として今作を挙げていたのも納得した。

一人部屋に戻った時の佐平次の表情。時計はいつか止まる。死の匂いを感じながらも、虚飾だらけの遊郭「相模屋」で、生きるために口八丁手八丁のテクニックを駆使する。人間の業を湿っぽくならず、それでもどこか寂しげに肯定してみせる。高杉晋作(石原裕次郎)との品川沖でのやり取りには庶民としてのエネルギーが爆発している。「手前一人の才覚で世渡りするからにゃあ、へへ、首が飛んでも動いてみせまさあ!」「地獄も極楽もあるもんけえ、俺はまだまだ生きるんでえ」 。

「10年経ったら世の中も変わるぜ」「侍には勿体無い」。数年後に幕末を迎える事を意識した台詞も気が利いている。88点。
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