KnightsofOdessa

イヤーウィグ/氷の⻭を持つ少女のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

3.0
[氷の歯を持つ少女の物語] 60点

ルシール・アザリロヴィック長編三作目。20世紀半ば、ヨーロッパの何処か。アルバートは氷の歯を持つ少女ミアの世話をしている。決まった時間になると、口に突っ込まれた大仰な溶解液回収装置を外し、溶けた歯を新しい歯に取り替える。ミアは日中も雨戸を締め切った家具もない部屋の中で遊び、不味そうな食事をして、夜になれば寝る。アルバート宛にたまにかかってくる電話でミアの状態を報告する。ミアは言葉を話せないのか、二人の間に会話はなく、淡々と日常生活が流れていく。日常生活の抽象度から考えると、歯の交換だけは驚くほど詳細に描かれており、正に世界観の心臓部と言っても過言ではない。次第に歯型が合わなくなっていき、それによって思春期の成長が物語られるというわけなのだが、あまりにも鈍重なメタファーで構成されているので、イマイチ突き抜けない。後にアルバートが誤って刺したウェイトレスのセレステも、ローレンスという謎の男に世話をされるというアルバートとミアの関係性を転写するような関係性に巻き込まれ、二つの挿話は同時に展開し、捻れたように重なっていく。彼らの関係性はどうなっているのか、ニ度の世界大戦の少し後という設定がどこから利いてくるのかは正直よく分からんが、観客に精神分析を…(以下略、アレックス・ガーランド『Men』参照)。ジュリア・デュクルノーの激烈な人体変化を観てしまうと、本作品のそれはかなり控えめで、心臓にはよろしい。ジョナタン・リッケブールのヒプノティックな画が良かったのでギリギリ持ちこたえた。
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