ドラキュラ伯爵に見初められた美しい令嬢・ミナ。
婚約者のハーカーは彼女を救うべく、科学者のヘルシングと共にドラキュラ退治に乗り出すが…。
ブラム・ストーカー原作『ドラキュラ』の初の正規映画化。
ただし、ブラム・ストーカーのドラキュラ映画としては、正規ではないが『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)が元祖。
『吸血鬼ノスフェラトゥ』はブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』を原作としてはいるが、版権を得ずに製作されたため、タイトルや登場人物の名前は変更されて公開されている。
また吸血鬼映画としては、ロシアの『Drakula(Дракула)』(1920)が元祖。
さらに吸血鬼として微妙なラインを含めると、この間レビューしたフランスの『Le Manoir Du Diable(悪魔の館)』(1896)が、最も古い映画になります。
ちなみにトッド・ブラウニングはこの作品の前に、1927年に『London After Midnight』という吸血鬼映画を撮っているが、1967年に火事でフィルムが消失してしまっているらしいので、おそらくもう観ることはできないだろう…。
で、この映画は、トーキーとしては初めて撮られた正統派のドラキュラ映画です。
ドラキュラ城や朽ちた僧院のゴシック調のおどろおどろしいセット、マントに燕尾服、異様な目ヂカラのドラキュラスタイルなど、後のドラキュラ映画の基本を決定付けた記念碑的作品。
ドラキュラ役は、ベラ・ルゴシです。
ルゴシと言えばドラキュラ、ドラキュラと言えばルゴシ、と云われるほどのはまり役。
別に絶世の美男子というわけでも、若いわけでもないのだけれど、なんかきれい。
まぁ今見ると、「えー?」と思う部分も多々ありますが。
ストーリー自体は王道なので安心して見れます。
しかし今観てみると、女性の部屋に侵入して血を吸う変態なおじさんの話に思えて、あんまり怖くない。
また、レンフィールドがドラキュラ城を訪れるところから始まるなど、原作をかなり改変したものになっている。
アナタ、原作では単に精神病院の患者でしょ。
他にもハーカー君がトランシルヴァニアに行かなかったり(この映画のハーカーはホントにただの役立たず)、ドラキュラはイギリスで退治されたりと、かなり違います。
ちっちゃい頃に本で読んだ吸血鬼の殺し方(物騒な本だ)より、幾分簡単に行われるけれど、そっち側に思わず寄りたくなるような魅力がありました。
ちなみにヴァン・ヘルシングによると、ドラキュラはトリカブトが苦手らしい。
この元ネタはなんだろうとwikiを見ると、「地獄の番犬といわれるケルベロスのよだれから生まれたともされている。狼男伝説とも関連づけられている。」 とあった。
吸血鬼の天敵は狼男らしいのでその関係だろうか?
その割にはトリカブトは中世ヨーロッパで「狼殺し」とも呼ばれていたみたいだし、よく分からなかった。
あと、背景が綺麗です。
特にお城の陰鬱さ、異様さは素敵に表現できてると思います。
蜘蛛の巣が張る廃墟なのに、モノクロフィルムの技術もまだ初期なのに、この造形美、光と影の使いかたは秀逸だと思いました。
モノクロって強いですね。
女性は勝負写真は絶対モノクロで撮るべき。
美貌が2~3割アップするから。
とりあえず、映画史の史料として、吸血鬼映画ファンの常識として、抑えておくべき一本であると思います。