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ロング・グッドバイのこたつムービーのレビュー・感想・評価

ロング・グッドバイ(1973年製作の映画)
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以前観た時は、煙草ばっか吸ってるエリオットグールドに乗り切れなかったんだが(自分も吸うが。劇中吸いすぎだ)、今回久方ぶりに観たら悪くない。

そもそもマーロウものに「傑作はない」。
・・という認識からまず始めないとね。

古くはボギーもの、ミッチャムもの、最近は浅野忠信もの、ニーソンものと多々あるがどうだろう。どれもそこまで大したことないように想う。

というのも、チャンドラーの原作って結局レトリック/文体萌えが前提にあり、それは映像に起こすと案外「普通に至る」という《ハードボイルドギャップ》が通底にあるから。文章は画に映らず、アクションだけだと普通になる病、というかね。エルロイ原作にも同じことが言え(LAコンフィデンシャルは傑作だけど)なかなか難しく、それだけに皆が思い思い挑戦しては、なんか違う、になるのだろう。

今回も「なんか違う」に包まれつつも、いや、映像に起こすなら実は妥当なアプローチなんではないか?、と感じた。

このマーロウ像は殆どアルトマンの暴走で、隣に住むカルト女子達なんて彼好みの完全な後付けだが(時代的にはシャロンテート事件など背景も忘れちゃ駄目な)、どっこい名手リーブラケットの脚本が実は強固で、どんなにヤンチャしようが作品が壊れていないと考える。その混沌とバランスが面白い。

アルトマンもそこまでマーロウ「節」に興味がないように見え、またその諦観がよく、エリオットグールドの抽出に集中している感じだ。そしてそれに応えるグールドが、実は他のどのマーロウ役より「男っぽく」魅力的。映画的に起こすんなら「これもマーロウですよ」ということだ。

夜の海岸シーンなんて「ドライヴ」がオマージュしてるし(なんならブレラン2049も、かも)、インヒアレントヴァイスやアンダーザシルバーレイクなど後世への影響もあるがそれよりも【幸せな70年代中盤】という時代感こそを言いたい。


「チャイナタウン」(1974)のある幸せ。


ロンググッドバイと同年1973年なんて「組織!」や「突破口!」も作られている(なんていい時代だ)。そんなボイルド全盛期に咲く幸福な作品の一つだ。