ツクヨミ

無言歌のツクヨミのレビュー・感想・評価

無言歌(2010年製作の映画)
4.1
中国"反右派闘争"における右派の真実。
1957年に中国政府は反政府論者を容認したが翌年にその政策は半転、反政府論者たちは"右派"と呼ばれ僻地で投獄されていく…
ワン・ビン監督作品社会派劇映画。ワン・ビン監督特集にて、ワン・ビン監督作品は時間が長いものが多く他作品はドキュメンタリーがほとんどだったので本作は時間が短く見やすいかなと思い鑑賞。本作は中国の闇の歴史"反右派闘争"の末路を描いていました。政府に楯突く者は容赦なく投獄され強制労働を強いられるという過酷さ、BGMなど一切なく彼らの辛い生活を真っ直ぐ映す見せ方に心打たれる。
前半は砂漠投獄で暮らす収容者の全体像を映し、まともな食事もできず飢えと寒さで人がバタバタ死んでいきそれが日常となっている恐ろしさを描いていく。しかし後半収容者の妻が投獄を訪れてから内容は一変する…これまで断片的に人々を映していたカメラが1人の人物にフォーカスする。それが収容者ではなく外界から来た女性というのが映える映える…収容者は何故か男性ばかりなのだから。そして印象的だったのはその妻が収容者の寝床から外に飛び出し歩いていくのを後ろから追うワンカット…手持ちカメラで撮ったようなシーンなのだが妻の揺れる心情を感じさせる見せ方で震えましたね。
そしてかなり印象的な妻の"慟哭"は凄まじい…BGMは一切なく静かな場面ばかりなので一層際立つ声に痺れる。この慟哭はアリ・アスター監督"ヘレディタリー"のトニ・コレットと"ミッドサマー"のフローレンス・ピューの慟哭を想起させる旋律であったと思う。これらに共通するのは"大事な人を亡くした悲しみ"だ…この叫びは聞くだけで感情にアクセスできる。言葉などいらないという表現が美しい。
全体的に見れば中国の闇を真摯に描いた作品。しかし個人的に展開の見せ方が面白かった作品だなと感じました。
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