KnightsofOdessa

夜のダイヤモンドのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

夜のダイヤモンド(1964年製作の映画)
5.0
[不条理な現実とSchrödingerの猫] 100点(オールタイムベスト)

前々から気になっていたチェコ・ヌーヴェルヴァーグの重要作で異端的な存在であるニェメツのデビュー作を漸く入手した。本作品を見る限り彼は天才だったようだ。

ふたりの少年が列車から飛び降りて森へ逃げ込む。彼らがどうして追われているかは分からない。これが本作品の真髄である。つまり、二次大戦中に突如として国を追われたユダヤ人にとって"なぜ"という数多くの疑問が浮かんだであろうし、突然襲いかかった史上最悪の不条理からはそれに対する答えを見つけるよりも早く逃げなくてはならなかっただろう。

ルスティクの原作には驚くほどの量の会話や情報が含まれているが、ニェメツは映画化に際してそれらを全て廃して無個性にすることで普遍性を獲得している。そして、彼の挑戦した"識閾下の夢"という隠れた主題に"Schrödingerの猫"が登場し、フラッシュバックが或いは逃走劇が実は重ね合わせられた未発生の事象である可能性すら示唆する。

しかし、現実(つまり映画の外)ではその事象は両方発生している。猫は生きており、同時に死んでいるのだ。
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