ぴのした

マイ・マザーのぴのしたのレビュー・感想・評価

マイ・マザー(2009年製作の映画)
3.9
カナダが生んだ稀代の天才、グザヴィエ・ドランの監督&主演デビュー作。

最初に断言するけれど、間違いなくこれはドランの最高傑作の1つ。

互いに愛してるのにどうしても上手くいかない母と息子の関係を静かな雰囲気の中に切実に描くストーリーや描写、人物の心情を丁寧に切り取るアップ中心のカメラワーク(しかも構図や音楽も絶妙にマッチしてて超絶オシャレ)、そして主役を務めるドランの名演技&超絶イケメンっぷり。。。繰り返すがこれがドランの監督デビュー作で、当時ドランは若干20歳である。ため息が出る。

ドランの演じる息子は16歳。母親の汚い食べ方や品のない言葉やファッション、そして自分を管理しようとしてくる物言いに何かと腹が立つ日々。母親もただ昔のように息子と友達のように喋りたいだけなのに息子はすぐに怒鳴り散らしてまともに取り合ってくれないことに困っていた。

このなんと言うかお互いに悪気はなくて愛し合ってるのは確かなんだけど、大人になりつつある息子と母親の関係は今まで通りでは上手くいかない。その絶妙な関係の難しさがリアルに感じた。

僕は母親とは上手くいくけれど、父親とかばあちゃんとかと話してるといろいろムカつくことや納得できないことがあるから、なんとなくそのかんじはわかるなあ。向こうにもちろん悪気はなくて、愛情は常に感じるんだけど鬱陶しかったり下に見られてるように思って反発したくなることってない?そういう親子の会話とか距離感の表現がこの映画はべらぼうに上手い。

映画中ほぼずっと登場人物を胸から上のカットのアップ(バストというらしい)で撮る手法もまたその絶妙な空気感や表現の演出に一役買っている。

母親の友達が遊びにくるシーン「久しぶり〜〜」「アラ〜〜!〇〇さんお久しぶり、日焼けしたじゃない!」「あなたのくれた服着てきたわよ〜〜」「あら似合うわ〜〜!そうだ花が咲いたから見て欲しいの!」みたいなマシンガントークが始まったのまじで日本のオカンの会話と同じやんの思って笑った。やっぱああいう「オカン感」は万国共通なんだなあ。

個人的に気になったのは、自宅や先生の家、父親の家とか、それぞれの家の壁に掛けてある絵画や彫刻へのこだわり。

自宅(母の家)にある虎の絵や動物柄の家具は野生的な印象で母親の活発さが伺えるんだけど、息子からすればダサいものの象徴にも取れる。(母親のトラ柄がいやっていうのもなんだか日本人のオカン感と通じるところがありそう)。

あと息子が家出して母親と電話するシーン。母親は寝室で電話しているんだけど、ベットに座る母親の姿を中心に捉える構図、暖色の強い色彩、部屋に飾られた絵画、明らかにアメリを意識しているカットがある。アメリといえば奔放で自由なんだけど愛に臆病なヒロインである。これは母親の奔放さを象徴するとともに母親が息子の愛し方に本気で向き合うことを億劫に感じていることを象徴しているように思った。

一方息子の部屋には均一の取れたオシャレな写真が貼り付けてあって、派手で絵画が中心の母親の部屋との対比が鮮明。

先生の家も象徴的で、母親の部屋とは対照的に青や白といった落ち着いた色彩が目立つ。飾られている絵画も都会の街や自然の中の家といった落ち着いたものが多く、先生の知性があって理性的で、だけれども温かみのある性格がよく表されているなあと思った。

父親の家はそれとは逆で赤がとても目立つ。飾られているのもなんだかアフリカンな人物像や動物の彫刻が目につき、権威的、情動的に見える。この野生的な印象は母親の家と少し印象がかぶるが、母親のそれより悪趣味に描かれているようにも見えた。

なにはともあれこの映画は傑作。マミーやたかが世界の終わりを見た時よりも感動が大きかった。僕の好みがドラン寄りになってきた部分もあるかもしれない。またその2つ見直したらきっと印象変わるだろうなあ。まだ見ていない作品も見たい。