ベイビー

トムボーイのベイビーのレビュー・感想・評価

トムボーイ(2011年製作の映画)
4.1
繊細だ、繊細だ、繊細だ、繊細過ぎる
主人公の繊細な心内が波打つように伝わってくる

「燃ゆる女の肖像」を観てから注目するようになったセリーヌ・シアマ監督。彼女の過去の作品が上映されるということで、今作品をずっと楽しみにしていました。

引っ越し先で"ミカエル"と名乗る主人公が、新しくできた友だちと共に夏を過ごす物語。たったそれだけの話なのに、ミカエルのある一つの秘め事によって、物語にもどかしい緊張感が漂います。

本当、ただ子どもたちが夏休みで一緒に遊んでいるだけの話なんです。子どもは子どもらしく遊び、大人は大人として優しく厳しく子どもたちと接しています。ただそれだけなんです。そうやって、ただありきたりな日常を描いているだけなのに、その"秘密"を抱えるミカエルを見守るだけで、彼の繊細な心情が痛々しく伝わってくるんです。

僕はこの作品の詳細をある程度知って観に行ったのですが、この作品に興味のある方は、できれば予備知識はゼロのまま作品を観ていただきたいです。予めあらすじを読んでしまったり、タイトルの「トムボーイ」という意味を知ってしまうと、ミカエルの"秘密"も秘密ではなくなってしまうので要注意。でも、知っていても面白い作品なんですけどね。

とにかく主人公のミカエルを演じたゾエ・エランが素晴らしい。この人のために今作が作られたと言っても過言ではありません。「スタンド・バイ・ミー」の時のリバー・フェニックを想起させるような鋭く端正なお顔立ち。たまに笑う仕草に幼さを残しつつも、立ち振る舞いはまさにイケメン。そして、その自然過ぎる繊細な演技は「誰も知らない」の柳楽優弥くんみたいで、静かな感情表現で観る者を惹きつけてしまいます。

その主人公の魅力を存分に引き出したセリーヌ・シアマ監督はやっぱり凄いです。主人公だけでなく、細部に至るまでの人間描写が素晴らしいですよね。過度な演出をするのではなく、日常をリアルに描き、リアルに描くことで登場人物たちのキャラクターが確立され、そうやって主人公の存在感を浮き立たせてしまうのですから、本当に見事なものです。やっぱり好きです。大好きです。

この人が描く登場人物に、悪い人は一人も居ないんです。だから好きなんです。
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