shibamike

ペーパー・ムーンのshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

ペーパー・ムーン(1973年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「あなたが信じてくれれば、つくりものの世界だって本物だわ。」

オープニングにしっとりと流れるIt's Only a Paper Moon。この歌の内容が甲子園で選手宣誓するスポーツマンシップの如く映画全編を一直線に貫いている。モーゼとアディの即席親子関係もつくりもの、この映画自体つくりもの。あぁ、つくりものだなんて虚しすぎる。いやしかしだけれども、信じることができれば、つくりものでも楽しく幸せに過ごせる。さぁ、世の中の映画達よ、我々観客を騙し続けて、死ぬまで騙しきっておくんなまし。アディがモーゼを信じたように。

「男と女と一台の車があれば映画が撮れる」と言ったのはゴダールだが、本作ではまさにその通りになっている。無愛想仏頂面で生意気だけど健気なアディと詐欺師だけど根は優しいモーゼ。リトルボニー&クライドのような二人。

道中車内での二人の喧嘩、仲直り、歓談は漫才を観ているようで痛快だった。永遠に続くんじゃないかと思うほど長~い道路を観ていると、浮き世の悩み事なんてシュルシュルと忘れてしまう。

中盤に登場する踊り子トリクシーとメイド少女もとても良かった。トリクシーは高慢ちきな嫌な女かと思ったら、「ただのデカパイよ」と自嘲する悲しい女であった。「好きな男でも最後は自分の元を去ってしまう。」と愚痴とデカパイをこぼすトリクシーであるが、相手を"信じる力"が不足しているということであろう。
ヤ○マンのことを公衆便所というのはよく聞くが(どんな日常だ)、「支払う金額次第の自動販売機」という表現は初耳だった。ラブジュース的な。

保安官からボコボコに復讐されたモーゼをアディが励ます。「また、やり直せるわ。新しい車だってすぐに買えるわ。」小さな子どもからこんな健気でいじらしい励ましをされたら成人男性・成人女性は頑張るしかないわな。

叔母の家にアディを預けた後、車内の置き封筒に気付くモーゼ。中身は遊園地のペーパームーンで撮ったアディの写真。「To MOZE From Addie」。アディからモーゼへのラブレター。私のことを忘れないでね。と言っているようでジーンとした。いじらしいねえ!そのあと、結局追いかけて来るっていうのでズッコケたけど。

ラストは真一文字の地平線に消えていくオンボロトラック。アメリカって良いなぁ、と思わずにいられなかった。

テレビ番組「松本紳助」で松ちゃんが好きな映画ということで知名度が一瞬妙に上がった本作。そういったこと抜きで文句無しの名作だと思う。鑑賞後、自分の心も温かくなった。が、何となく物足りない感も否めず、シネマインポテンツ気味の自分は残尿をぼとぼと垂らしながら劇場を後にした。
shibamike

shibamike