オレオレ

アメリカン・スプレンダーのオレオレのレビュー・感想・評価

アメリカン・スプレンダー(2003年製作の映画)
4.0
アメリカのコミックブック(グラフィックノベル)原作者を主人公にした、半ドキュメンタリー半フィクション作品。
漫画と本人と役者が入り混じり、なかなか面白い。

クリーブランドの退役軍人病院のカルテ管理課で働いているハーヴィー・ピーカーは、2度目の妻との離婚が避けられない状況。
裕福とは言えないエリアにある家に住み、車もなく、何より給料が安い。そんなハーヴィーの趣味は、ジャズレコードとコミックブックの収集(自宅の棚がレコードの重みで歪み過ぎて笑える)。
頭にくる上司やなんだかよくわからない同僚、それに日常生活でのイライラがマックスに達したハーヴィーは、これをコミックにしたら売れるんではないかと思いつくが、自分では絵が描けない。
この、漫画化アイデアが出てくるスーパーマーケットでどのレーンに行くかの葛藤や、前の婆さんにキレるシーン、「あるある!」で笑える。
今でこそ携帯電話で支払いするけど、ほんの25年くらい前までは、現金を財布から出したり(しかも、財布をバッグから出すのは、レジに並んでいるときではなく合計を言われてから!準備しとけ!)、なんなら現金よりもっと手間と時間のかかる小切手支払いとかをやる人がいたもんなあ。

常々、アメコミは子供向けの動物やスーパーヒーローものばかりで、大人向けの作品がないことに不満を感じていたハーヴィーは、自分のアイデアを棒人形(!)漫画で描き、知り合いの有名漫画家に共同制作の話を持ち掛ける。
アイデアを気に入った漫画家クラムと共同で「American Splendor」というコミックブックを出すと、カルトな人気を集め、有名TVトークショーのゲストに招かれるほどになるハーヴィー。
ファンだという女性とも結婚し、喧嘩は絶えないもののそこそこ安定した生活をしていたハーヴィーだが・・・。

基本的にはポール・ジアマッティがハーヴィー役を、ホープ・デイビスが奥さんのジョイス役を演じるのだが、ナレーションはハーヴィー本人が行い、しかもたまに彼が画面に出てきて「あー、この時はよう」と話を始めたりする。
途中、ハーヴィー本人と、同じく実在する同僚トビーの本人が映画のセットでジェリービーンズを食べながらチャットしているシーンがあるのだが、その後ろで、ジアマッティとトビー役のジュダ・フリードランダーが彼らの会話を見て笑いを必死にこらえているシーンがあってウケる。
(ジュダ・フリードランダーのトビーはとトビー本人と見分けがつかないくらいで面白い!)

漫画主人公がセリフを言ったり、動きだしたり、本人が出てきて語りだしたりするのはウディ・アレンの「アニー・ホール」に近いが、それぞれのタイミングが絶妙で嫌な感じではない。
むしろ、全編通して役者がやるより、よりハーヴィーが身近に感じられる演出になっていて「アリ」だな、と思った。

後半、リンパ腫にかかったハーヴィーの闘病生活とその後が語られるが、そこで急に「お涙頂戴」に変わらないのもよかった。
本人、2010年に亡くなっているようだが、墓碑には彼の口癖、”Life is about women, gigs, an' bein' creative”が彫られているとか。まあ、初対面でジョイスに「俺ってパイプカットしてるし」とか言っちゃう人なので、こんな墓碑もありかも。