オレオレ

関心領域のオレオレのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
音響もスゴイが、画面の色彩の対比も効果的でジリジリ来る感じ。

温室やプールや家庭菜園が優美に配置された広い広い庭と、使用人が何人もいる屋敷に住むヘドウィグ。
敷地を取り囲む高い壁は真っ白で、庭には白いシーツがはためき、旦那の白いサマースーツや白い靴には一点のシミもない。
手入れの行き届いた青い青い庭に咲き乱れるあらゆる種類の草花。
また、全体に人のアップは少なく、一つ手前の部屋からのショットや中距離からのショットで客観性が高められており、淡々と映し出される楽園の日常がますます異常に思えてくるが、壁の向こうの叫び声、常に上がり続ける煙や消えない火、銃声、悪臭を全く気にとめないヘス一家。
何が起きているのか知らないわけではなく、ちゃんとわかったうえで「ユダヤドレス」だの歯磨き粉から出てきたダイヤモンドなどの話をする奥様連中は、地元民、といいながら、アーリア人ではない使用人たちのことも目に入っていない様子。
遊びに来たヘドウィグの母親が異常だと感じて一晩で自宅に戻ってしまうが、壁の外の異常に慣れ切り、白い家が大好きなヘドウィグにはわからない。

この新しく、キレイでモダンな家に住む一家の日常を映しながら、急に差し込まれるシーンにガツンとやられる。
ピカピカの家から出勤する旦那をとらえたシーンに映る監視塔に「キタ!」となるが、こういう「キタ!」が思いがけない時にやってくる。
消灯後、長男がベッドで懐中電灯で眺めているものはコミック本ではないし、脱いだブーツを磨く人の身なり、毛皮コートのポケットから見つけたものをそのまま使う異様、土に混ぜる肥料の出どころなど、その背後を想像してギャッとなるが、すべて「普通」なヘス家。
そして、旦那のルドルフの衛生に関する概念と彼のやっていることの対比がスゴイ。
家は常にピカピカ、川であるものを浴びたあとの執拗な入浴、ある行為をしたあとに自分を洗浄してからベッドに入るなど、極端なきれい好きであるのに、ユダヤ人を連続して焼き続けることのできる新しいデザインのオーブン施設に対する手放しの賞賛という対比。
誕生日という生を祝うヘス一家の隣で進行する死という対比。
ベッドタイムストーリーとして読むヘンゼルとグレーテルのあの場面と隣の敷地で起きていることの対比、というか共通点か。そういう共通点や対比にすべて無頓着でぞっとする。
もちろん、ルドルフからの電話にヘドウィグが眉根を寄せる理由は、「どうやって毒ガスを早く室内に充満させるか」を考えていたという電話の中身や、「ハンガリーのユダヤ人の大量輸送作戦」といった旦那の手柄ではなく、夜中に電話してくんなよ、の点のみ。だってそんなこと、自分の「関心の領域」外なんだもの。この手に入れた楽園以外に関心がない。
ハンナ・アーレントのいう「悪の凡庸性」がまさにこういうことかと思ったり。

ただ、あんまり政治的にはなりたくないが、こういう扱いを受けた末裔が、いま、ガザでやってることにどうやって正当性を見出すのかが疑問。
すべてのイスラエル人がネタニヤフ政府を支持してるわけでもないし、拉致されて殺された人質が自分の家族だったらそんなこと思ってられないだろうという想像はつくものの・・・

しかしよー、「オッペンハイマー」は原爆の描写が無くて炎上、本作はホロコーストの描写が無くて激賞。どうすりゃいいのさ。