ツクヨミ

キートンの探偵学入門/忍術キートンのツクヨミのレビュー・感想・評価

3.1
意外性を基礎にし唯一無二を目指したキートン、ついに映画の中に入る⁉︎
最近探偵を目指し探偵学に夢中なとある映写技師の男、彼は小さな事件が発生した時に勉強した探偵学を用い事件を解決しようと奮闘するが…
バスター・キートン監督作品。ドタバタ喜劇を得意とするキートンが、視覚的に映画の中に出たり入ったりする不思議な男を描いた作品を作り上げたのが本作だ。
まず前半ではキートンお得意のドタバタ喜劇からスタートする。とある映写技師の男が好いた娘に気に入られるため、名探偵を目指し独自捜査と実証をしようと画策するが失敗。そんな様子をしっかりとしたコメディで笑えるように仕上げているのが実にキートン的で楽しいが、いつものドタバタ感がちょっと飽き飽きしそうな印象だ。
しかし本番は中盤からでキートン扮する映写技師が探偵という目標に夢破れ、仕事中に居眠りを始めてしまう。すると居眠りしている男から魂が幽体離脱しフワリと館内を浮遊しだし、終いには映写している映画の中に入ってしまうのだ。現代に於いてはよくあるアイディアである"映画の中に入る"という事象をたぶん映画史で初めて取り入れたのが本作であるのは間違いないし、唯一無二であることを目指したキートンの作家性の一種の到達点を見た気がしてめちゃくちゃ楽しい。そして映画の中に入った途端に始まるドタバタ喜劇がまた面白く、映画のカットと共に突如変わる背景の連続に乗れないキートンが滑ったり転んだりするのだ。この消失と出現のトリック的要素はかつて映画黎明期でジョルジュ・メリエスが得意とした映像トリックをビシビシ感じた。キートンがメリエスにオマージュを捧げた素敵な雰囲気に感嘆するばかりだ。
そしてその後は映画の中に入ったキートンが現実で出来なかったであろう、探偵となり捜査を続ける姿を捉えていく。映画の側面として鑑賞者の夢を投影するという要素があると改めて感じたし、現実に夢破れた男が映画の中では夢を叶えるという展開が少しロマンチックに見えてくる。映画の中に入るという事象でさえ面白いのに、ストーリーとして男の内面を映画という文化に帰結させた映画マジックを本作に感じた。
また今作は終盤ではキートンお得意の疾走キートンの爽快さも見ることができ、キートンドタバタ喜劇としての魅力もしっかりある。"映画の中に入る"という斬新アイディアと"唯一無二を目指す"というキートンの作家性を掛け合わせた素敵な試みを感じられる作品だった。
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