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ラスト、コーションのOASISのレビュー・感想・評価

ラスト、コーション(2007年製作の映画)
4.5
1942年の上海を舞台に、抗日活動家の女スパイとそのターゲットとなった特務機関の男との許されざる関係を描いた映画。
監督はアン・リー。
「ラスト・コーション」ではなく「ラスト、コーション」なのは、ラスト=肉欲、コーション=警戒の意味。

過激な性描写が物議を醸しR-18となったが、よく言う「芸術か猥褻か」という点では完全に芸術性が勝っている為その判断はどうかと思われる。
一部完全にトニー・レオンのアレが入ってるんじゃないかという場面はあるが、基本的に描かれるのはエロスのカケラも感じないほど痛々しいベッドシーンの数々。

女子大生が劇団に所属し、その劇団が徐々に抗日活動へと傾倒していく中で、ターゲットに近づく為なら好きでも無い男とでも寝て経験を積むその女優魂と、用心深く自分以外誰も信じない孤独な男がぶつかり合うベッド上の営みは哀しみさえ漂う。
体では深く繋がっていても、決して相手を疑う事をやめないその視線の応酬から感じるパワーに圧倒されて胸が苦しくなる事しばしば。
相手を警戒する事、そして愛する事という相反する感情の狭間で揺れ動く主人公に自分の想いを重ねてしまう女性は多いだろうが、自分は只管ぶっきらぼうで粗野で孤独なトニー・レオンの苦悩する姿に痺れてしまった。
ラストシーンの美しさや儚さで言えば、ここ数年観た映画の中で一番かもしれない。

主役の女スパイを演じるタン・ウェイは1万人の中からオーディションで選ばれたという、演技経験ほぼゼロの女優らしい。
その絶妙な素人っぽさが、抗えずに情欲に絡め取られていく女性を体現していた。
何より、「この男、落ちた」と確信した時に見せる笑みにやられた。

「警戒」をテーマにしているだけに、婦人同士が何度も食卓を囲んでいるにも関わらず誰もがお互いを目で牽制し合ったりしている姿も緊迫感があって良い。
なんと言っても話題は過激なベッドシーンに尽きるが、それ以外も非常に見どころがあって2時間40分が苦にならなかった。
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