橘

八つ墓村の橘のレビュー・感想・評価

八つ墓村(1977年製作の映画)
4.1
これが……横溝正史先生が役に推した渥美清さんの金田一耕助。
良い。渥美さんの声が優しくて、こんな大変な事態にも落ち着いてるから頼りに出来る探偵でした。
金田一家は、じっちゃんも孫も事件を途中でとめられないんだけれども。(追記:市川崑監督によると金田一耕助は「天使」なので人間のやることに干渉せず、そのせいで犯人が目的を完遂してしまうそうです)
横溝先生によると、探偵は狂言回しだから二枚目じゃなくて良いらしいです。二枚目は主人公か犯人が演るだろうし二人も要らない、と。

「八つ墓村」は原作が辰弥視点で書かれてるので、金田一さんが全然出張ってこないのも違和感無しです。

ミステリというよりもほんとに尼子一族の祟りが全てでした。
金田一さんも「調べるの辞めました」って言ってしまう。
そうきたか〜凄い。

キャストも良かったです。
格好良い萩原健一さん、妖艶な小川眞由美さん、白塗りは怖いけど口調は慣れ親しんだ日本昔ばなしな市原悦子さん、加藤嘉!と思ったら即死んじゃう加藤嘉さん……
加藤嘉さんや下條正巳さんの毒殺され方、熱演でした。
下條アトムさんはどういう心配の仕方?
そして山崎努さん。多治見要蔵も久弥もだなんて演じ分けが凄い。有名な津山三十人殺しシーン(ちがう)、短いながらも迫力ありました。
桜を背景に要蔵が走ってくるシーンは秦野の病院の庭で撮ったなどと山崎さんがインタビューで仰ってて、病院の庭!?となりました。

多治見要蔵の殺戮シーンも怖かったけど、一番怖かったのは燃え盛る仏壇に向かって経を上げながら火に巻かれてそのまま…な小竹お祖母さんのシーン。
小竹さんの服に火が…!人形だろうけどゾッとします。
洞窟で辰弥を追ってくる森美也子の泣き声も怖かった……ふたりとも鍾乳洞でよくあんなにダッシュできるなぁ。

心を掬い上げることに重きを置かれてた金田一映画だと感じられました。
見立て殺人の美意識?や関係者たちの狂気に重きを置かれて制作される金田一も勿論好きだけど、こういう方向で描かれるのもいいな。

あ、この金田一さんが死体を見付けてもそんなに騒がないの、復員してる設定をちゃんと入れてるのかなと思いました。
PTSD発症してるほど先の大戦の影響が強い金田一さんは長谷川博己版でしか観たことなかったですが、こちらの金田一さんは死に慣れている。それでこんなに落ち着き払ってるのか。。



2024年2月15日までの、松竹のYouTubeチャンネルでの期間限定配信。
冒頭の横溝先生が渥美さんを推したのはWikipedia調べなのだけれど、中野良子さんは幼少期の辰弥役が吉岡秀隆さんだった事に最近まで気付かなかったそうなのも載ってて、ちょっと面白かったです。

野村芳太郎版と市川崑版で、多治見家の外観には同じお家が使われてるのも良い。
岡山にある広兼邸だそうです。
橘